真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

運転手の言葉が冷や水のように背中をつたって私は一瞬ビクッと肩を震わせた。

それから恐る恐る窓の外を見やり、ここが本当に母のいる場所なのかと訝しげに目の前にそびえ立つ高層ビルを窺った。

自分でここに来ると決めたにもかかわらず。私はこの場所から逃げたい気持ちでいっぱいだった。

『......Thank you.』

私は萎縮する気持ちを押し隠す事が出来ないまま、運転手に小さく呟いた。

『Good luck!!』

こっちの心境なんて、まるで眼中にない運転手は満面の笑みと大声を発して、おまけにグッと親指まで立てた。

空気の読めない運転手の態度に、私はまたしても背中をヒヤリとさせられて身を固くしながら実にぎこちない足取りでタクシーを降りた。

その時、コツンッとコンクリートにヒールのぶつかった音がやけにはっきりと耳についた。

身体中の神経が張り詰めて、これ以上ないくらい緊張している証拠だった。

カチカチに固まった体でぎこちなくあたりを眺めてみる。

雑然としていて騒音が激しいニューヨークのイメージ。だけど、この場所は対局と言っていい程、閑静でハイソサエティな空気を纏っている。

......彼に似合う。

今日も、きっと。彼は日本にいた頃と変わらない端正なシルエットと流暢な英語で忙しなく、でもスマートに。この街を生き抜いてる。

ーー相変わらず広務さんからは何の音沙汰もない。

胸が締め付けられた。

この苦しさは、恋の痛みなの?それとも、ただ傷ついてるだけ?

母と会うための場所でさえ、やっぱり......私はあなたを想ってる。

便りのない彼に胸の中で語りかけながら目の前にそびえ立つビルを見据えた。けど、私はどうしても隣のブティックが気になって仕方がなかった。

5番街に着いた時から分かってた。

私の母が働いている会社の隣にあるのは、広務さんが私へ贈ってくれたエンゲージリングを買ったお店。