車に乗り込んでからも、会話らしい会話は無かった。
沈黙を極める車内に、ハイソなカーコロンの香りとブルートゥースから聞こえる音楽が、時が流れていることを教えてくれた。
”話が出来る落ち着いた場所”そこについたのは、いわゆる夕飯時と言われる時間帯でオフィス街から一駅離れた場所にある趣のあるカフェは休日の昼下がりの賑わいとはうってかわって、この時は貸し切り状態だった。
「それで......」
私は物静かな店内に反響するジークの重々しい声を受け止めながら、ホットコーヒーが注がれた熱いカップを両手で包んだ。
「父が君の顔を見た時、ほんの一瞬驚いたような目をしたことに疑問を持ったオレは君が日本に帰国した後、そのことについて父を追求した......」
ジークは黙って聞き入る私を見届けると、話しを続けた。
「君のお母さんとオレの父は昔、同じ会社の同僚だった。セクションも同じで、顔をあわせる機会が多く、自然と親しくなってお互いの身の上話なんかもするようになった。優花という娘を日本へ残してきていること、事情があって長らく会えないでいること。そして、何よりも娘に会いたいということを.......」
眉根を寄せて切に語るジーク。
私は彼の様子と話す内容に驚きと動揺が入り混じった不安定な感情を抱きながら、胸の動悸が治まらなかった。
ジークのお父さんと、私の母が、同僚......!?
......母が、お母さんが私に会いたがっている......。
会えない事情ーー。
想像し得なかった情報が一気に押し寄せて胸中が掻き乱される。そんな状態の私が唯一出来ていたことと言えば、微動だにせずジークの話を聞き続けることだった。
しかし、ジークには私がやけに落ち着いて見えたようで、彼はそれからも”しくしく”と、話し続けて最後にポケットから名刺を取り出した。
「君のお母さんとオレの父が働いていた会社だ。この会社は今も、ニューヨークにある.......」
沈黙を極める車内に、ハイソなカーコロンの香りとブルートゥースから聞こえる音楽が、時が流れていることを教えてくれた。
”話が出来る落ち着いた場所”そこについたのは、いわゆる夕飯時と言われる時間帯でオフィス街から一駅離れた場所にある趣のあるカフェは休日の昼下がりの賑わいとはうってかわって、この時は貸し切り状態だった。
「それで......」
私は物静かな店内に反響するジークの重々しい声を受け止めながら、ホットコーヒーが注がれた熱いカップを両手で包んだ。
「父が君の顔を見た時、ほんの一瞬驚いたような目をしたことに疑問を持ったオレは君が日本に帰国した後、そのことについて父を追求した......」
ジークは黙って聞き入る私を見届けると、話しを続けた。
「君のお母さんとオレの父は昔、同じ会社の同僚だった。セクションも同じで、顔をあわせる機会が多く、自然と親しくなってお互いの身の上話なんかもするようになった。優花という娘を日本へ残してきていること、事情があって長らく会えないでいること。そして、何よりも娘に会いたいということを.......」
眉根を寄せて切に語るジーク。
私は彼の様子と話す内容に驚きと動揺が入り混じった不安定な感情を抱きながら、胸の動悸が治まらなかった。
ジークのお父さんと、私の母が、同僚......!?
......母が、お母さんが私に会いたがっている......。
会えない事情ーー。
想像し得なかった情報が一気に押し寄せて胸中が掻き乱される。そんな状態の私が唯一出来ていたことと言えば、微動だにせずジークの話を聞き続けることだった。
しかし、ジークには私がやけに落ち着いて見えたようで、彼はそれからも”しくしく”と、話し続けて最後にポケットから名刺を取り出した。
「君のお母さんとオレの父が働いていた会社だ。この会社は今も、ニューヨークにある.......」


