エレベーターという狭い密室で彼と二人きり、見つめあう。
でも、それはほんの短い時間だった。
上目遣いに見つめた私に一瞬目を合わせた広務さんは、すぐに視線を外してエレベーターの階数ボタンを眺めた。
「今日は仕事で遅くなったから。家に帰るよりも近くにホテルをとって、すぐに休もうと思ってさ」
きっと、ニューヨークでも広務さんは日本にいた頃と同様に目まぐるしい生活を送っていて、街の景色と言語が変わった以外彼のライフスタイルは変化していない。
私が彼の生活に組み込まれていた時の日本への愛着なんて、思いのほか薄くて。昔の恋人に懐かしさを覚えることもない.......。
さっき目をそむけられた時に、そう悟った。
「相変わらず、お仕事忙しいんだね。それなのに、ごめんね今日は。厄介なことに巻き込んじゃって......」
「今日は運が良かったよ、俺は。優花を助けることができて。.......日本にいた頃はロクに傍に居ることもできなくて、寂しい思いばっかりさせてしまったから。だから、俺は振られたんだ。今では、よく納得してるよ」
そう言って広務さんはエレベーターの階数ボタンを見つめながら小さくため息を吐いた。
注釈してほしいことがたくさんあるのに......、広務さんは階数ボタンを見つつそれ以上話すことはしなかった。
私も彼に、うながされるように無言でエレベーターのボタンに視線を送った。
階を上がるごとに階数ボタンを点灯させながら動いていたエレベーターは、そのうち”ピン”という音とともに停止して最上階の11階に到達した。
扉が開くと広務さんは私に先に降りるように言って、その間彼は私がエレベーターに挟まれないようにと扉を手で抑えてくれていた。
紳士的な気遣いとレディーファースト。それは奇しくも彼と初めて出会った日を思い出させた。
広務さんとの、お見合い当日。私は、あろうことか遅刻したうえに汚れた靴で待ち合わせ場所に現れた。
初対面の人に対して、あまりにも失礼な行動。私は彼の将来の伴侶候補として真っ先に除外されるべき女だった。
それなのに、広務さんは遅刻したことを一切責めずに、それどころか私の汚れたハイヒールを見て”走らせて申し訳ない”と、優しすぎるくらい寛大に受け止めてくれた。
その彼が結局は私とは他人になって、海を越えて......。今夜を逃したら、もう永遠に出会えない人だと思うと今を千載一遇のチャンスと、とらえるよりも、それよりも胸が切なかった......。
「......広務さん、私。寂しい思いしても、それでも広務さんの傍に居たいと思ってた」
でも、それはほんの短い時間だった。
上目遣いに見つめた私に一瞬目を合わせた広務さんは、すぐに視線を外してエレベーターの階数ボタンを眺めた。
「今日は仕事で遅くなったから。家に帰るよりも近くにホテルをとって、すぐに休もうと思ってさ」
きっと、ニューヨークでも広務さんは日本にいた頃と同様に目まぐるしい生活を送っていて、街の景色と言語が変わった以外彼のライフスタイルは変化していない。
私が彼の生活に組み込まれていた時の日本への愛着なんて、思いのほか薄くて。昔の恋人に懐かしさを覚えることもない.......。
さっき目をそむけられた時に、そう悟った。
「相変わらず、お仕事忙しいんだね。それなのに、ごめんね今日は。厄介なことに巻き込んじゃって......」
「今日は運が良かったよ、俺は。優花を助けることができて。.......日本にいた頃はロクに傍に居ることもできなくて、寂しい思いばっかりさせてしまったから。だから、俺は振られたんだ。今では、よく納得してるよ」
そう言って広務さんはエレベーターの階数ボタンを見つめながら小さくため息を吐いた。
注釈してほしいことがたくさんあるのに......、広務さんは階数ボタンを見つつそれ以上話すことはしなかった。
私も彼に、うながされるように無言でエレベーターのボタンに視線を送った。
階を上がるごとに階数ボタンを点灯させながら動いていたエレベーターは、そのうち”ピン”という音とともに停止して最上階の11階に到達した。
扉が開くと広務さんは私に先に降りるように言って、その間彼は私がエレベーターに挟まれないようにと扉を手で抑えてくれていた。
紳士的な気遣いとレディーファースト。それは奇しくも彼と初めて出会った日を思い出させた。
広務さんとの、お見合い当日。私は、あろうことか遅刻したうえに汚れた靴で待ち合わせ場所に現れた。
初対面の人に対して、あまりにも失礼な行動。私は彼の将来の伴侶候補として真っ先に除外されるべき女だった。
それなのに、広務さんは遅刻したことを一切責めずに、それどころか私の汚れたハイヒールを見て”走らせて申し訳ない”と、優しすぎるくらい寛大に受け止めてくれた。
その彼が結局は私とは他人になって、海を越えて......。今夜を逃したら、もう永遠に出会えない人だと思うと今を千載一遇のチャンスと、とらえるよりも、それよりも胸が切なかった......。
「......広務さん、私。寂しい思いしても、それでも広務さんの傍に居たいと思ってた」


