......昔なら、きっと彼は私の涙を指先で拭ってくれたはず。
今となっては行き場のない涙を放って、私はただひたすらに現実となった彼の姿を揺らぐ視界で必死に捉えていた。
2年ぶりに出会った彼はトレードマークとも言える涼やかな二重まぶたと、鼻筋の通った高い鼻、さらりと艶めく黒髪は無造作に後ろへ流して以前よりも男の色気と貫禄が増していた。
日本にいた頃、仕事帰りの彼とデートした日に着ていた濃紺のスーツ姿は当時のままで、細いストライプの入ったズボンのポケットからファーストフード店でもらった紙ナプキンを取り出すと、いかにもばつが悪そうに私に渡してくれた。
「こんな物で申し訳ないけど」
「うん......、大丈夫。ありがとう.......」
広務さんがくれた紙ナプキンからはジャンキーな油の匂いがした。そして、涙を拭うと、ぐしゃぐしゃになった。
「こういう場所で優花と出会うなんて予想もしてなかったよ。夜中にキャリーケース引いて......まさか、一人で来たの?」
数年ぶりに会うのに、恋人だった頃と変わらない風に広務さんは私を気にかけてくれた。
変わった事といえば、もう彼と私は恋人同士ではないし、その証として彼は私の涙を指先で拭う事はしなかった......。
ほんの少しだけ、期待していた自分が恥ずかしくて、それ以上に寂しかった。
それでも私は涙に濡れたぐしゃぐしゃの紙ナプキンを握りしめながら、広務さんに対して気丈に振る舞った。
「うん、一人で来たの。観光だよ。いままでクラブで遊んでたの」
「本当?」
「どうして?」
「いや、優花変わったなと思ってさ......」
そう言って広務さんは、どこか寂しそうな笑顔を私に向けた。
広務さん、私たちは日本で別れたあの日から、この2年間で完全に他人になってしまったんだね。
でも、私はね......心の奥では今日の今日まで何時も、あなたの面影を求め続けていたんだよ。
私は言うに言えない本心を胸にしまって、彼のもとを去る決心をした。
「あ、ちょっと待って。だいぶ夜も遅いし、タチの悪い酔っ払いが廊下をうろついてるかもしれない。部屋まで送るよ」
今となっては行き場のない涙を放って、私はただひたすらに現実となった彼の姿を揺らぐ視界で必死に捉えていた。
2年ぶりに出会った彼はトレードマークとも言える涼やかな二重まぶたと、鼻筋の通った高い鼻、さらりと艶めく黒髪は無造作に後ろへ流して以前よりも男の色気と貫禄が増していた。
日本にいた頃、仕事帰りの彼とデートした日に着ていた濃紺のスーツ姿は当時のままで、細いストライプの入ったズボンのポケットからファーストフード店でもらった紙ナプキンを取り出すと、いかにもばつが悪そうに私に渡してくれた。
「こんな物で申し訳ないけど」
「うん......、大丈夫。ありがとう.......」
広務さんがくれた紙ナプキンからはジャンキーな油の匂いがした。そして、涙を拭うと、ぐしゃぐしゃになった。
「こういう場所で優花と出会うなんて予想もしてなかったよ。夜中にキャリーケース引いて......まさか、一人で来たの?」
数年ぶりに会うのに、恋人だった頃と変わらない風に広務さんは私を気にかけてくれた。
変わった事といえば、もう彼と私は恋人同士ではないし、その証として彼は私の涙を指先で拭う事はしなかった......。
ほんの少しだけ、期待していた自分が恥ずかしくて、それ以上に寂しかった。
それでも私は涙に濡れたぐしゃぐしゃの紙ナプキンを握りしめながら、広務さんに対して気丈に振る舞った。
「うん、一人で来たの。観光だよ。いままでクラブで遊んでたの」
「本当?」
「どうして?」
「いや、優花変わったなと思ってさ......」
そう言って広務さんは、どこか寂しそうな笑顔を私に向けた。
広務さん、私たちは日本で別れたあの日から、この2年間で完全に他人になってしまったんだね。
でも、私はね......心の奥では今日の今日まで何時も、あなたの面影を求め続けていたんだよ。
私は言うに言えない本心を胸にしまって、彼のもとを去る決心をした。
「あ、ちょっと待って。だいぶ夜も遅いし、タチの悪い酔っ払いが廊下をうろついてるかもしれない。部屋まで送るよ」


