真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

狭い視界と頭の中を独占する見覚えのある面影。

たとえ爪先だけだって、私には分かる。

その男(ひと)が、広務さんだってことーー。

「なんてね」

一瞬忘れていた声で、今自分が置かれている状況が鮮明になる。

せっかく心の中が広務さんでいっぱいだったのに......。

理不尽だと分かっていながらも。私は、さも不機嫌そうに、視界を塞ぐジークの瞳に問いかけた。

「......何?」

「いくらこの街の出身だからって、恋人の許可無しにキスはしないよ。今の優花は、まるで石みたいに固くなってる。そんなに、緊張する?街なかでキスするのは。.......違うか。優花の視線、明らかにオレを見てなかった。何か、他のことを気にしてるんだろう?この街に在る、いや、この街に居る.......」

胸がドキリと波打った。

ジークは憂いのある声で尻つぼみに語った。ここまで来ても安心してないんだ。

......その通り。私が、この街の喧騒と人の流れに気を取られるのは、ジーク、あなたとキスするからじゃなくて、この街に行くと言っていた、彼に想いを馳せているから。

「.......なんだろうね。よく分からないよ。優花は俺と結婚するのに、今更何を気にするって言うんだろうね。ごめん、オレ調子狂ってる。時差ぼけかな?」

騒々しく華やかな街並みに陰気なテンションは似合わない。前言撤回といった風にジークは鬱々とした雰囲気を一掃させて、少しおどけながら私に柔和な笑顔を向けた。

そして、その朗らかな気分のままに実に自然に私の手を取り指先を絡ませた。

「迷子になっちゃうからね」

”子ども扱いしないでよ”そう言ってやろうと意気込んだのも束の間、交差点が青信号に変わりタイミングを逃した私は言い返すことも出来ず。スッと歩き出したジークに手を引かれて無言で人波をかき分けた。

「オレのそばを離れないで」