ご両人が出揃ったところで。どう頑張っても、お邪魔虫にしかならない私は潔く、この場から撤退することにした。
「実加、ごめんっ! 私、急用思い出したから......。やっぱり帰るねっ、又今度ゴハン行こうっ」
「えっ!? 優花!? あっ、ちょっと......」
私は戸惑う実加を気にせず。「じゃあ又、明日ね」と、言ってできるだけ自然な笑顔を作り、軽く手を振って挨拶した後、今度は横澤さんの方へ視線を移動させて会釈すると、二人にくるりと背中を向けて颯爽と歩き出した。
実加の私を引き止める声が、急速に尻窄みになっていく。
こんなに急ぎ足で歩いているのは、幸せそうに仲良く並んでいる二人から、早く離れたかったから。
友達の幸せを素直に喜べない自分を卑下して苦しみながら、同時に救いを求めている心に描いたのは、かつて広務さんがくれた愛された日々だった。
広務さんは横澤さん同様かなり多忙な人で、頻繁に会うことは叶わない。だからこそ、会えた日には有りったけの想いを込めて触れ合った。記憶を呼び起こせば、すぐ傍に彼が現れた。
涼やかな二重瞼が弧を描いた優しい笑顔を向けてくれたこと、柔らかな唇でキスをくれたこと、温かい胸で抱き締めてくれたこと、広い背中にもたれたこと、逞しい腕に寄り添って、長い指先と手を繋いだこと......。
広務さんに、どうしようもないくらい会いたいーー。
たとえ彼が私をどういう立場に置いていたとしても......。
意を決した私は朝からずっと思い悩んでいた問題に、終止符を打つべくバッグからスマホを取り出した。
緑色のランプが点滅しているスマホは、誰かからLINEが送られて来ていることを表していて、それがおそらくジークからだと予測できた私は、LINEは開かずに着信履歴を表示して広務さんに電話をかけた。
1コール、2コールと呼び出し音が鳴り始めたと同時に、ロビー周辺からも着信音が聞こえた。
午後5時過ぎ現在、お茶汲みOLならともかく。大都会のビジネスマンにとっては、まだまだ業務時間内。取引先の接待や上長への成果報告など、なにかと連絡を取り合う時間帯だ。
私は、なんとなく気になって、着信音がした方へと目を向けた。
会社の正面入り口を出て左方向に、姿勢が良くスラリとした長身に細見のリクルートスーツで身を包んだビジネスマンが、右手にスマホを持って、よくよく画面を確認している。そして、その人の前隣に改めて目を向けてみれば......、
「広務っ!?」
私のすぐ後ろで、横澤さんの声が響いた。
「実加、ごめんっ! 私、急用思い出したから......。やっぱり帰るねっ、又今度ゴハン行こうっ」
「えっ!? 優花!? あっ、ちょっと......」
私は戸惑う実加を気にせず。「じゃあ又、明日ね」と、言ってできるだけ自然な笑顔を作り、軽く手を振って挨拶した後、今度は横澤さんの方へ視線を移動させて会釈すると、二人にくるりと背中を向けて颯爽と歩き出した。
実加の私を引き止める声が、急速に尻窄みになっていく。
こんなに急ぎ足で歩いているのは、幸せそうに仲良く並んでいる二人から、早く離れたかったから。
友達の幸せを素直に喜べない自分を卑下して苦しみながら、同時に救いを求めている心に描いたのは、かつて広務さんがくれた愛された日々だった。
広務さんは横澤さん同様かなり多忙な人で、頻繁に会うことは叶わない。だからこそ、会えた日には有りったけの想いを込めて触れ合った。記憶を呼び起こせば、すぐ傍に彼が現れた。
涼やかな二重瞼が弧を描いた優しい笑顔を向けてくれたこと、柔らかな唇でキスをくれたこと、温かい胸で抱き締めてくれたこと、広い背中にもたれたこと、逞しい腕に寄り添って、長い指先と手を繋いだこと......。
広務さんに、どうしようもないくらい会いたいーー。
たとえ彼が私をどういう立場に置いていたとしても......。
意を決した私は朝からずっと思い悩んでいた問題に、終止符を打つべくバッグからスマホを取り出した。
緑色のランプが点滅しているスマホは、誰かからLINEが送られて来ていることを表していて、それがおそらくジークからだと予測できた私は、LINEは開かずに着信履歴を表示して広務さんに電話をかけた。
1コール、2コールと呼び出し音が鳴り始めたと同時に、ロビー周辺からも着信音が聞こえた。
午後5時過ぎ現在、お茶汲みOLならともかく。大都会のビジネスマンにとっては、まだまだ業務時間内。取引先の接待や上長への成果報告など、なにかと連絡を取り合う時間帯だ。
私は、なんとなく気になって、着信音がした方へと目を向けた。
会社の正面入り口を出て左方向に、姿勢が良くスラリとした長身に細見のリクルートスーツで身を包んだビジネスマンが、右手にスマホを持って、よくよく画面を確認している。そして、その人の前隣に改めて目を向けてみれば......、
「広務っ!?」
私のすぐ後ろで、横澤さんの声が響いた。


