「秀(しゅう)くん......っ!!」
”秀くん”ーー!?
実加は、もしや二重人格なのでは?と、真面目に思ったくらい。横澤さんが現れた瞬間、いや刹那。彼女はブッ放していたマシンガントークを抹殺して、代わりにフリフリの衣装を着てステージの上で踊っている、どこぞのアイドルかと見紛うほどのキャピキャピした仕草を見せた。
小鳥のさえずりを1オクターブ上げた声で、予想外のマイダーリンの登場に驚きの声を上げた実加は、口元の前で両手のひらをキュッと握って目をぱちくりさせている。
「今日は残業確定って、言ってたのに......」
「みぃちゃんが、家で一人ぼっちじゃ寂しいと思って、残業切り上げて追っかけてきた」
先ほどの実加の暴言を明らかに聞いているはずなのに。当の横澤さんからは微塵の不信感も怒りも全く感じられない。むしろ自分へのクレームを大音量で社内に轟かせていた恋人が今は気まずく縮こまっているのをどうにか解放したくて、仕切りに穏やかな微笑みを湛えて安心感を与えようとしている。......”みぃちゃん”と、呼びながら......。
会社ではクールな印象の横澤さんが、人目を憚らず実加を愛称で呼んだ挙げ句、キャラ崩壊の溺甘なセリフを口にしたことに度肝を抜かれつつ。私は、いかに横澤さんが実加を大切に思っているかを痛感した。
等級を特進して時期課長候補だと言われている横澤さんは本来、社内の残業規定を遥かに越えた仕事量を抱えているはず。だけど、こうして定時で帰るのは、なるべく実加と過ごせるように仕事を家に持ち帰っているから。空間を共有すること自体が横澤さんにとって実加への大きな愛情表現なのだ。そして、家でまで横澤さんが仕事に精をだすのは、無論、実加との将来のためだ。
そのことを実加だって本当は、きちんと分かっている。横澤さんが忙しくするのは二人の将来のためだってことが。だから言えないのだ、自分の束の間の理想と衝動のために、彼の永続的な愛情を踏みにじるようなことは。
私は不器用でも懸命に愛し合っている二人が羨ましかった......。
”秀くん”ーー!?
実加は、もしや二重人格なのでは?と、真面目に思ったくらい。横澤さんが現れた瞬間、いや刹那。彼女はブッ放していたマシンガントークを抹殺して、代わりにフリフリの衣装を着てステージの上で踊っている、どこぞのアイドルかと見紛うほどのキャピキャピした仕草を見せた。
小鳥のさえずりを1オクターブ上げた声で、予想外のマイダーリンの登場に驚きの声を上げた実加は、口元の前で両手のひらをキュッと握って目をぱちくりさせている。
「今日は残業確定って、言ってたのに......」
「みぃちゃんが、家で一人ぼっちじゃ寂しいと思って、残業切り上げて追っかけてきた」
先ほどの実加の暴言を明らかに聞いているはずなのに。当の横澤さんからは微塵の不信感も怒りも全く感じられない。むしろ自分へのクレームを大音量で社内に轟かせていた恋人が今は気まずく縮こまっているのをどうにか解放したくて、仕切りに穏やかな微笑みを湛えて安心感を与えようとしている。......”みぃちゃん”と、呼びながら......。
会社ではクールな印象の横澤さんが、人目を憚らず実加を愛称で呼んだ挙げ句、キャラ崩壊の溺甘なセリフを口にしたことに度肝を抜かれつつ。私は、いかに横澤さんが実加を大切に思っているかを痛感した。
等級を特進して時期課長候補だと言われている横澤さんは本来、社内の残業規定を遥かに越えた仕事量を抱えているはず。だけど、こうして定時で帰るのは、なるべく実加と過ごせるように仕事を家に持ち帰っているから。空間を共有すること自体が横澤さんにとって実加への大きな愛情表現なのだ。そして、家でまで横澤さんが仕事に精をだすのは、無論、実加との将来のためだ。
そのことを実加だって本当は、きちんと分かっている。横澤さんが忙しくするのは二人の将来のためだってことが。だから言えないのだ、自分の束の間の理想と衝動のために、彼の永続的な愛情を踏みにじるようなことは。
私は不器用でも懸命に愛し合っている二人が羨ましかった......。


