終業のチャイムが鳴ると同時に仲良く席を立った実加と私は、隣にぴったりと並んで、おしゃべりをしながらエレベーターに乗り込んだ。
さすがに、”浮気した”それで、”どうやら浮気相手の子を妊娠したみたい”......とは、まだ言えないので。端的に”彼と、うまく行ってない”と、しょぼくれながら話すと実加は小柄でキャピキャピした容姿からは想像できない貫禄十分な態度で腕を組み、エレベーターの天井を見上げながら達観した意見で答えてくれた。
「まぁ、人生山あり谷ありだからさ。恋が超絶うまくいく時、どん底まで落ち込む時......当然あるよ」
「実加も横澤さんと付き合ってて、落ち込んだ時とかある?」
「そりゃ、あるよぉ。彼って、仕事人間だからさ。今一緒に住んでるけど、家でも仕事ばっかしてて、あんまり二人で、まったりする時間がないんだよね。だから若干、慢性的に落ち込んでる」
意外だった。会社で時たま目に入ってくる二人の様子を見ていると、横澤さんは明らかに他の女子社員と実加に対しては一線を画した対応をしているし、実加も横澤さんと話している時は、別人級に汐らしい。さぞ、二人っきりで密室にいる時は、まるで磁石のように引っ付いて片時も離れないのではないかと想像していたのに......。
その後も実加から横澤さんへのクレームは止まらず。口を回すごとに白熱して行き、どんどん声が大きくなってエレベーターを降りて会社のロビーを歩いている頃には、コンクリートの壁に反響して”やまびこ”さながらに、こだましていた。
「みっ、実加......っ、声、大きいよ......っっ」
「誰に聞かれたっていいよっ! だって本当の事だしっ!」
どこまでも公明正大に自分の恋愛事情を語る強気な実加。彼女のマシンガントークを制止する技量は私も他の誰も持ち合わせちゃいない。もう、ある種の尊敬の眼差しを向けて実加の話に傾聴し始めた時、なぜかピタリと彼女の口が止んだ。
「おつかれ」
スッと実加の隣に並び、私の存在などには目もくれず。実加を一心に見つめて愛しそうに目を細める黒縁メガネが、よく似合う黒髪の文系イケメンーーまさしく、その男(ひと)は、実加の彼氏の横澤さんだった......。
さすがに、”浮気した”それで、”どうやら浮気相手の子を妊娠したみたい”......とは、まだ言えないので。端的に”彼と、うまく行ってない”と、しょぼくれながら話すと実加は小柄でキャピキャピした容姿からは想像できない貫禄十分な態度で腕を組み、エレベーターの天井を見上げながら達観した意見で答えてくれた。
「まぁ、人生山あり谷ありだからさ。恋が超絶うまくいく時、どん底まで落ち込む時......当然あるよ」
「実加も横澤さんと付き合ってて、落ち込んだ時とかある?」
「そりゃ、あるよぉ。彼って、仕事人間だからさ。今一緒に住んでるけど、家でも仕事ばっかしてて、あんまり二人で、まったりする時間がないんだよね。だから若干、慢性的に落ち込んでる」
意外だった。会社で時たま目に入ってくる二人の様子を見ていると、横澤さんは明らかに他の女子社員と実加に対しては一線を画した対応をしているし、実加も横澤さんと話している時は、別人級に汐らしい。さぞ、二人っきりで密室にいる時は、まるで磁石のように引っ付いて片時も離れないのではないかと想像していたのに......。
その後も実加から横澤さんへのクレームは止まらず。口を回すごとに白熱して行き、どんどん声が大きくなってエレベーターを降りて会社のロビーを歩いている頃には、コンクリートの壁に反響して”やまびこ”さながらに、こだましていた。
「みっ、実加......っ、声、大きいよ......っっ」
「誰に聞かれたっていいよっ! だって本当の事だしっ!」
どこまでも公明正大に自分の恋愛事情を語る強気な実加。彼女のマシンガントークを制止する技量は私も他の誰も持ち合わせちゃいない。もう、ある種の尊敬の眼差しを向けて実加の話に傾聴し始めた時、なぜかピタリと彼女の口が止んだ。
「おつかれ」
スッと実加の隣に並び、私の存在などには目もくれず。実加を一心に見つめて愛しそうに目を細める黒縁メガネが、よく似合う黒髪の文系イケメンーーまさしく、その男(ひと)は、実加の彼氏の横澤さんだった......。


