着信履歴に表示された彼の名前。たったそれだけなのに、私の胸はまるで羽が生えたように軽くなり、春が訪れたように温かくなった。
後のことも先のことも今は考えない。
今の私に必要なのは広務さんの確かな存在だ。
いずれ閉ざされてしまう未来なら、せめて一目会えるうちに......!
間も無く地平線に沈みゆく太陽が今日最後に見せる夕焼けは、焦げ付いたように赤黒く、行き交う人の表情をもはや外の明かりから読み取ることは難しい。
そんな暮れていく街の情景とは相反するように、明るく点灯するスマホの画面に勇気づけられた私は、彼へと通じるシグナルを暗闇が街を覆う前に指先から発信した。
胸に手を当て発信音を待つ。
彼も私からの連絡を待っていると信じて......。
固唾を飲み、電波が繋がる前の無音の数十秒間を耐え抜いて、飛び越えた電波の壁の向こう側ーー。
”ツー......、ツー......、”
何?
何?この音......。
話中の通信音は最初、誰かが私達の運命を嘲笑っているような笑い声に聞こえた。
”彼と繋がらない”
その現実が切なく焦燥感を煽った。
今朝、彼との間に起こった出来事と今自分の身に起こっている変化が、性懲りも無く広務さんを追いかけさせる。
私は吹っ切れたように電話を切ると、それまで背中を丸めて大通りに背を向けていた姿勢を翻し、腕を高く上げて後方からやってきたタクシーを止めた。
「中央区のラグジュアリータワーマンションまで、お願いします」
後のことも先のことも今は考えない。
今の私に必要なのは広務さんの確かな存在だ。
いずれ閉ざされてしまう未来なら、せめて一目会えるうちに......!
間も無く地平線に沈みゆく太陽が今日最後に見せる夕焼けは、焦げ付いたように赤黒く、行き交う人の表情をもはや外の明かりから読み取ることは難しい。
そんな暮れていく街の情景とは相反するように、明るく点灯するスマホの画面に勇気づけられた私は、彼へと通じるシグナルを暗闇が街を覆う前に指先から発信した。
胸に手を当て発信音を待つ。
彼も私からの連絡を待っていると信じて......。
固唾を飲み、電波が繋がる前の無音の数十秒間を耐え抜いて、飛び越えた電波の壁の向こう側ーー。
”ツー......、ツー......、”
何?
何?この音......。
話中の通信音は最初、誰かが私達の運命を嘲笑っているような笑い声に聞こえた。
”彼と繋がらない”
その現実が切なく焦燥感を煽った。
今朝、彼との間に起こった出来事と今自分の身に起こっている変化が、性懲りも無く広務さんを追いかけさせる。
私は吹っ切れたように電話を切ると、それまで背中を丸めて大通りに背を向けていた姿勢を翻し、腕を高く上げて後方からやってきたタクシーを止めた。
「中央区のラグジュアリータワーマンションまで、お願いします」


