真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

会社でパソコンに向かい指先を動かしていた8時間の間で、私の思考の矛先が仕事に向けられたことは今日一度もなかった。

唯一社内で反応した出来事といえば、終業を知らせる5時のチャイムが鳴った時。

オフィスで、おそらくどの社員よりも仕事量が少なく、残業をする必要性の無い私は今日も終業のチャイムが鳴り始めたと同時に席を立った。

課長も他の社員も、当たり前の光景だと思い、わざわざ顔を真っ直ぐにあげて挨拶などしない。横目で、もしくは声だけで「お疲れさま」と軽く挨拶をしてくれる。

いつもの景色に見送られて課を後にした私は、一階へと通じるエレベーターに向かった。

エレベーターは今日も10階からゆっくりと降りてくる。普段は何の感想も持たない、その動きをやけに焦れったく感じるのは、自分の胎内が急速に変化していると思っているから。

私はエレベーターが到着するまでのたった1分足らずの待ち時間にも耐えられず、重い鉄の扉を開いて段差の激しい階段をハイヒールで降りた。

手すりをしっかりと掴んで、一歩一歩慎重に足を降ろす。

一階までは、程遠い。

途中で抜けてエレベーターに乗ろう......。

ーーその方が、負担がかからないかも。

気がつくと私は、お腹の子の事を第一に考えた行動を取っていた。

良い母親になるって、本能かもーー。

妊娠に独りで向き合っているという不安の中に生まれた希望。

自分の中に母親らしい愛情を見出す事ができた私は落ち着きを取り戻し、力強い足取りで会社の正面玄関を出た。