真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

私の”YES”の反応を広務さんは感知してくれたのだろうか?

私が頷いても、しばらくの間、彼は何の行動を起こすもなく、相変わらず私の手を強く握っていた。

下向きの視線に意図せずに映る彼の静脈の浮き上がった手の甲は、いかに彼が私の手を強く握っているかを証明していた。

”こうして君をしっかりと掴まえておかないと、あの男に盗られそうでーー”

しなだれた私の手をすっぽりと覆う、彼の大きな手が瞳に語りかけてくる。

なんて言葉を返そう......。

そう、考えあぐねていると。急にスッと力が緩められ、広務さんは私の手を握る代わりに、黒革が張られた愛車のハンドルを握った。

「じゃあ、送るよ......」

「......うん。お願い」

それ以降、会社に着くまでの間、私達が会話をする事は一切なかった。

彼の愛車を降りた時、バタンとしまったドアの音が怖いくらいに大きく聞こえたのは、車内での沈黙に慣れ過ぎてしまったせいだろうか?

コツン コツンと会社の廊下に響くハイヒールの音も、いつもより耳障りだ。

私、緊張してる。これから来る彼との未来に身構えてるーー。

これから9時間後、私は彼にLINEをして、そこから未来が動きだす。

広務さんと私には時間が必要なのに、時間は待ってくれない。

ほら、こうして今日も”しがない”お茶汲みOLの1日がスタートした......。

「おはよーっ! ちょうど今。課長、係長、主任......てか、マイダーリンに就業前のお茶出し終えたとこーっ」

課に着くと早速。朝一番のお茶汲みを終えた実加が、会社近くの100円ショップで売っているミニトレーをまるで我が子を抱くかのように大事そうに、両腕をクロスさせながら抱きしめて遅刻ギリギリの私をとびっきりの笑顔で迎えてくれた。

「おはよう......っ、ごめんねっ! お茶出し一人で、させちゃったね......。ありがとう」

「いいの、いいの〜っ! 優花は今日、どうやら遠方よりお出ましの様だし!? 遅刻しなくてラッキーだったねっ。 ねぇっ、昨日彼の家にお泊まりしたでしょ!? スカートだけ変えたってダメだよぉ〜っ、ブラウスが昨日と同じだし。それに、今日の優花、いつもと違う匂いがする。 男物の香水の薫り......」