真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

自らが乱した着衣を直し、私の剥きだされた肌を隠した広務さんは、眉根を寄せた苦しい表情をしながら項垂れた。

彼が私の身体に、ぶつけた感情、それはジークへの嫉妬心以外の何物でもなかった。

ーーたった一度の過ち。

互いの不安感を乗り越えることが出来なかった私達は、この短期間の間に心に途方もない距離を作ってしまった。

運転席と助手席の距離が開いたまま、指先さえ触れ合うこともなく。沈黙を貫く彼と私の真ん中に届いたフロントガラスを透過した太陽の光は、重暗い車内に今日の始まりを告げながら悲しい倦怠感で身体を動かすことが難しい私達に、それでも前へ進めと新しい一日のスタートを急かした。

「......会社まで送って」

「えっ......、でも。優花......」

たかが、お茶汲みOLの私が。こんなに心身乱れた状態で、休息よりも社会人としてのモラルを守ろうとしたことに驚愕した様子で、彼は目を見開きながら否定的な台詞を言いかけた。

「休んだら、会社に迷惑かけるし、実加が私の分も仕事しなきゃいけなくなるから。......ひっ、広務さんは私の事、ただのお茶汲みOLだと思ってるかもしれないけど、......実際、そういう雑用が多いけど......、でもっ......! 私だって......っっ!」

私だってーー、何なんだろう......。

社会人としての確固たる存在意義を見出せずに、私は口ごもった。すると彼は私に視線を合わせて手を強く握った。

「俺、優花の事そんな風に思ってないよ! 俺は......っ」

「......送って」

切実な彼の言葉を遮ってしまった理由は、今の私達の距離感では何を聞いても、言っても、到底心の奥には伝わらないと思ったから。

私達には時間が必要。解決策は、それしかない。

「......帰り、迎えに行くから......!」

歩み寄る彼を振り切るように、私は首を横に大きく振った。

「きちんと話がしたいんだ。会いたい」

心の距離を縮めようと努力する彼に、私はそれでも黙って俯いていた。

「......分かった。じゃあ、せめて。家に着いたらLINEして欲しい。......心配だから」

”心配だから”

絞り出したような、枯れた声が微かに聞こえた。その切ない声に私は、ようやく小さく頷く事ができた。