真心の愛を君に......。 〜 運命の恋は結婚相談所で ~

とても優しい声だったーー。

昨夜、彼の腕の中で、今朝、彼の胸に抱かれて聞いた声そのままに。広務さんはジークの明かした真相など、ことさら世迷言を聞き流すかのような振る舞いで、しっかりと私の手を握り正面にスッと佇んでいた。

どんな事態が訪れようとも、私の好きな男(ひと)は何も変わらない。

きっと、それは心から私を信じてくれているからだ。

その気持ちが私に彼をより愛おしくさせる。それから、とても苦しませる。

広務さんが信じてくれている私は幻想で、彼の目の前にいる本当の私はジークが明かした通りの、裏切り者ーー。

裏切りの代償は余りにも重く。私は今にも身体が押し潰されそうなほどの重力を感じながら、目の前に広がる彼の頼もしくて深い胸板を口惜しく見つめていた。

視線を合わせようとしない私に広務さんは何も言わずに、ゆっくりと手を引いた。

彼に手を引かれた私は、おぼつかない足取りでつま先を前に進めた。

身体が押し潰されそうなほど重力が、のしかかっているはずなのに、彼に手を引かれた途端に、まるで追い風に背中を押されたように足先を踏み出せたのは、自分の罪を顧みずに彼を求め続ける自分の浅ましさだった。

このまま黙って、私を信じてくれている彼に、どこまでもついて行けばいい......。

そんな、ずるい考えが頭の中を支配しながら、私は広務さんに手を引かれて一歩一歩出口に向かい彼と共に歩んでいた。

あれほど頑なに握っていた拳も今では、指先一つ一つが彼の長い指と、しっかりと繋がれて触れ合う肌と肌からは柔らかな温もりが生まれている。

もうすぐだ。

もうすぐ、この惨状から抜け出せるーー。

私は綺麗な正方形に整えられたエントランスの床石を一つ二つと数えながら、私の前を歩く彼の靴のかかとを追いかけた。

規則正しく一定間隔で視界に入る彼のかかと。それが私をとても安心させてくれる。

薬を飲み込むような気持ちで彼のかかとを目に入れていると、やがてエントランスのガラス扉を擦り抜けた外の光が瞳に届いた。

ここまで来れば、もう安心......。

私は、今にも外界に踏み出そうとしている彼のかかとが、視界に入るのを心待ちにした。

少しタイミングが、ずれて私の視界に入った彼のかかと。それは外界に着地してはいなかった。

「モルガン、でたらめを言うな」