互いに牽制し合っている二人は自然と声が大きくなって、少し離れた所にいる私の耳にもはっきりと会話の内容が聞こえてきた。
”浮気者”
ジークは前も、広務さんをそう罵った。
それは、あの日だ......。
消去したはずの忌々しい記憶が今、鮮明に蘇る。
まるで甘い夢の中から叩き起こされた気分。それとも、悪夢に引きずり込まれてしまったのだろうか?
「誰が浮気者だ。俺が大切にしたいと思う女性、結婚を考える女性は優花だけだ」
そう、広務さんは浮気者なんかじゃない。
いつだって誠実に私を愛してくれている。今だってジークの暴言に一切怯む事なく反論して、私への気持ちを言ってくれた。
ーーそれなのに、私は......。
「大切にしたい? お前が大切なのは自分の事だけだろ。優花と結婚したい理由だって彼女が、お前にとって、とてつもなく都合のいい女だからだろ?」
「黙れ!モルガン、俺の事はともかく、優花を侮辱するような言い方だけは絶対に許さん!」
広務さんはジークの蔑むような態度に、普段の穏やかで冷静な人柄からは想像できないほど、声を荒げて激昂した。
私は初めて見る広務さんの様子に、ただただ全身を強張らせて足を竦ませた。そして、何よりも彼の激昂する姿に強く胸の奥が締め付けられて、とても苦しくて辛かった......。
怒りに肩を震わせる広務さんを前に、ジークは慄いた様子で半歩下がり口を噤んだ。しかし、すぐに力を抜いて、今度は広務さんを鼻で笑った。
「おめでたいな、お前は」
「何だと? もう一度言ってみろ」
「何も知らないんだな。優花は、ずっと前からオレのものだった」
動揺を隠しきれなかったのだろうか? 広務さんは突然めまいに襲われたかのように、ほんの僅かに体を動かした。
ジーク、お願い。これ以上、やめてーー。
「優花は、オレに抱かれた」
”浮気者”
ジークは前も、広務さんをそう罵った。
それは、あの日だ......。
消去したはずの忌々しい記憶が今、鮮明に蘇る。
まるで甘い夢の中から叩き起こされた気分。それとも、悪夢に引きずり込まれてしまったのだろうか?
「誰が浮気者だ。俺が大切にしたいと思う女性、結婚を考える女性は優花だけだ」
そう、広務さんは浮気者なんかじゃない。
いつだって誠実に私を愛してくれている。今だってジークの暴言に一切怯む事なく反論して、私への気持ちを言ってくれた。
ーーそれなのに、私は......。
「大切にしたい? お前が大切なのは自分の事だけだろ。優花と結婚したい理由だって彼女が、お前にとって、とてつもなく都合のいい女だからだろ?」
「黙れ!モルガン、俺の事はともかく、優花を侮辱するような言い方だけは絶対に許さん!」
広務さんはジークの蔑むような態度に、普段の穏やかで冷静な人柄からは想像できないほど、声を荒げて激昂した。
私は初めて見る広務さんの様子に、ただただ全身を強張らせて足を竦ませた。そして、何よりも彼の激昂する姿に強く胸の奥が締め付けられて、とても苦しくて辛かった......。
怒りに肩を震わせる広務さんを前に、ジークは慄いた様子で半歩下がり口を噤んだ。しかし、すぐに力を抜いて、今度は広務さんを鼻で笑った。
「おめでたいな、お前は」
「何だと? もう一度言ってみろ」
「何も知らないんだな。優花は、ずっと前からオレのものだった」
動揺を隠しきれなかったのだろうか? 広務さんは突然めまいに襲われたかのように、ほんの僅かに体を動かした。
ジーク、お願い。これ以上、やめてーー。
「優花は、オレに抱かれた」


