コーヒーの大きなシミが付いたスカートを履いたまま、彼の愛車の助手席に乗って今日の予定には無かった自分の部屋へと帰ってきた私は仏頂面でクローゼットを開き、クリーニング済みのキレイな洋服にタメ息を吐いた。

あーあ。今日は昨日と同じ服を着て出社して、”昨日の夜は彼の部屋にお泊まりしたから、昨日と同じ服なのっ”......的な無言のラブラブアピールをする予定だったのに。

作戦が失敗した今、代わりの服なんて何でもいい。てゆうか、じっくり選んでる暇はない。広務さんを待たせるの嫌だしーー。

広務さんは路肩に車を横付けして私をマンションのエントランスまで送ってくれた後、車をUターンさせて今は最寄りのコインパーキングで私が着替え終わるのを待ってくれている。

コインパーキングからマンションまでは車で5分ほど。決して遠い距離ではないけれど、それでも朝の5分間を無駄にするのは、けっこうなロスタイム。

そもそも。私が車を持っていないが為に、入居者専用駐車場を契約しなかったから彼に余計な時間と、お金を使わせる羽目になったわけで......。

だいたい。私がコーヒーをブチまけなければ、こんな事にはならなかった......。

あーあっ!本当、私ってドジでマヌケで、おまけにグズ!

......でも、そんな私を彼は真っ直ぐに愛してくれる。

自分の抜け加減に酷く嫌気がさしていたのに。広務さんの真摯な愛情を胸に抱いた途端に私の自己嫌悪感は無くなり、数十秒後にはクローゼットの中で最初に目に付いたネイビーのスカート履いて笑顔で広務さんに電話をかけていた。

「もしもし、ごめんねっ!お待たせっ!」

「大丈夫だよ。着替え終わったの?」

「うんっ!完璧っ!」

「よしっ、じゃあ、すぐ迎えに行くから待ってて......」