燐「…内容による…かな…」

瑠「そう、だよね、うん。分かってる。…知ってる。」


何を話すんだ?
そして、それは俺に関係あるのか?
よく分からないまま、彼女の言葉を待った。




瑠「私ね、アナタに言えない秘密があるの。」

儚く笑う彼女。触れたら崩れそうだと燐は思った。
だが、気の利いた言葉は望月燐の口からは出てこなかった。代わりに出てきた言葉は、

燐「は?」


だった。
だが、無理もないと燐自身も思った。
いきなり、こんなこと言われても困るに決まってるだろう、誰だって。



瑠「それは、誰かを守るための優しい秘密…でもアナタに理解してもらいたい。…だから」
燐「ごめん、ちょっとよく分からない。」


瑠璃の言葉を遮るように燐は呟く。


燐「訳分からない手紙を書いて、更には言えない秘密?ワケわかんねえーよ…」

瑠「そう、だよね…ごめんね。」

燐「っ…。」

やっぱりか、と悔しそうに唇をぎゅっと噛み締める瑠璃。見かねた燐は咄嗟に声をかける。

燐「と、友達から!!!」
瑠「へ?」

燐「友達から始めていこうぜ??ほ、ほら俺達まともに話した事もないだろ?W望月〜とかって言われるくらいだけ、だし…。それなのにお前も秘密とかワケわからない手紙とかじゃ俺も困るっていうかなんていうか…」



瑠璃は突然の燐の申し出にぽかんと口を開けている。
そして、燐自身もなんでこんな事言っているのだろうと内心恥ずかしさでいっぱいだ。


そして、1分たったくらいでようやく瑠璃が言葉を発した。


瑠「友達に、なってくれるの……?!」

燐「え」

瑠璃は目を輝かせ、燐の方を見ている。
なんで、そんなに目を輝かせるのか燐にとっては不思議だったが喜んでくれるのなら、こちらも喜んで友達になろうと思った。



燐「んじゃ、改めまして俺は望月燐。野球部の次期エースになる男。ほい、そっちの自己紹介」

瑠「私は、望月瑠璃…。ヴァイオリニスト…です…」


燐「なーるほど。どーりで高嶺の花って呼ばれるだけの雰囲気醸し出してるとおもったわ。」

そーゆうことか、と一人納得している様子の燐。
その反応に戸惑いを隠せない瑠璃。

瑠「…私、高嶺の花なんかじゃないよ?」

燐「おっと、こっちの話だ気にすんな!」

瑠「そう?……!」



ふわっ



燐「ん?これは…」

瑠「キンモクセイの香りだ…!!」

燐「……あぁ、そうだな。」


秋風がキンモクセイの香りを教室に運び込み、二人の周りを包み込んだ。

そして微笑んだ後、瑠璃は燐の方に向き直した。

瑠「ねえ、望月くん。ワガママ言ってもいいかな」

燐「ん?」

瑠「下の名前で呼んでもいい…??」

顔がほんのり赤い……夕日のせいか??明らかに声は照れている。そんな照れながら言われてはこっちまで顔が赤くなる。

燐「そ、そーだな!友達になったしそうするか!んじゃ、気軽にりんって呼んでくれよな!」

瑠「うん!!私の事はるりって呼んで…!」

燐「おう!よろしくな、るり!」

そして、俺は望月瑠璃と友人になれたこと、下の名前で呼び合えることになった嬉しさで、彼女の一番優しい嘘がなんなのか聞かずじまいだった。