どうして一ノ瀬さんが冷たいのか、どうしてこんなことをするのか。何もかも分からないまま、彼は私の服のボタンに手をかけ始めた。

「待っ……いちのせ、さ……」


必死に服を掴んで問いかければ、低くて冷たい声が返ってくる。


「ムカつく」


それだけ言って、私のブラウスのボタンを順番にはずしていく。彼の手がだんだんと下がってくることに恐怖を覚えて、私はとっさに彼の胸をドンッと押した。


「やだ……ってば!」


はあ、はあっと息を切らしながらも必死に抵抗すると彼は私を小さく睨んだ。


「生意気」

「はぁ、はぁ意味、分からな……っ」


頭の中は今でもパニック状態なのに、一ノ瀬さんは何も答えてくれない。


「なんで……突然こんなこと、するんですか」


冷静になって、私が聞くと少し考えるような素振りを見せたまま黙ってしまった。


言ってくれなきゃ、誰だって何も分からないままだ。

お互いにじっと見つめ合う時が続くと、彼は痺れを切らしたかのように私に歩み寄った。

そして、ゆっくりと距離を縮める。


のろり、のろりと近づいて来た彼の表情はやっぱり少し寂しげで、いつもとは違かった。

そして、そっと私の耳元に近づくと静かな声で囁く。


「なぁ、キス……名残惜しいって思ったか?」