「昨日あれだけ酔ってたんだ、体もダルいだろ。少し休んで行けよ」

「ありがとうございます」


洗い物を終え、彼の言葉に甘えてソファーに腰掛けた私。こき使われることを覚悟していたけれど、案外優しい。

一ノ瀬さんは机にコーヒーの入ったマグカップを置くと自分もすぐ隣に腰をかけた。

カップに口をつかると、ほどよい甘さと苦さが口の中に広がる。


その時に一ノ瀬さんってなんだかコーヒーみたいな人だと思った。

悪魔の時はほろ苦く、その中にほんのり甘みがあるような人。


温かいコーヒーに心がほっとすると彼はポツリとつぶやいた。


「お前ってさ、彼氏でもいんの?」

「え、えっ!?なんでですか?」


まさかそんなこと聞かれると思わず、慌てふためいていると、遠くを見つめた一ノ瀬さんが言う。

「夕べお前を抱いた時、他の男の名前を呼んでたから」

「だっ、……!」


ものすごくいい声でそんなことを囁かれて、とっさに彼と距離を取る。


「だ、抱いたってウソなんですよね、それは……」

「嘘だとは言ってねぇぞ?」

「えっ」


急にむき出しの足が恥ずかしくなって来て、必死に足りない布を補おうとTシャツを掴む。

「何モジモジしてんだよ」

「あっ、いや……っあ!」

伸びてきた一ノ瀬さんの手が私の足をするりとなぞるから思わず声を出してしまった。