「一緒にご飯行ったんですか?」

「接待な」

「向こうの方は随分一ノ瀬さんに釘づけのように見えましたけど」

「そうだろうな」

「…………。」


もう声すら出なかった。
そうか?なんて惚けてくれればいいものを、普通に言ってしまう所が一ノ瀬さんらしい。

冷ややかな視線を送りながらも、全く動じない彼を見ていると何だか気が抜ける。

ぐい、っとビールを豪快に煽った一ノ瀬さんはジョッキの中身を空にすると、すぐさま同じものを頼んだ。

「お前は?」

「じゃあ私もビールを」

注文を終えて、味付き卵を口に運び、満足気な表情を浮かべる一ノ瀬さん。

つくづくギャップがある人だ。

毎日高級料理のディナーを食べてると言っても誰も疑わないだろうに。


「それ、疲れないんですか?」


私の問い掛けに一ノ瀬さんは首を傾げた。


「何だ?」

「なんというか仕事の時と性格違うじゃないですか。使い分けるの、疲れないのかなって」

「全然。むしろずっと真面目でいる方が疲れんだろ。お前も想像してみろ、会社ではずっとエリート扱いだぞ」

「とても想像出来ません」

「だろうな」


ピシャリと言い放たれてむっと口を尖らせると、一ノ瀬さんはくつくつと笑った。


「ははっ、お前って本当に何でも顔に出るんだな」