されるがまま。思考をも溶かすようなキスにくぐもった声が漏れる。


こんなんじゃ、ダメだ。しっかりしなくちゃ。


ドンッと強く彼の胸を押すと、その唇はようやく離れていった。


「はぁ、はあ」


息を切らしながらなんとか一ノ瀬さんから距離を取る。


「何、するんですか!」



口元を拭い、必死に紡ぎ出した言葉はまるで余裕が無かった。



「そんなもんで足りたのか?」


薄っすら浮かべる笑みは余裕さえ感じさせる。


「お前、俺のこと好きだろ?チャンスだったのにな」

「な……!す、好きじゃないですよ!」

「チラチラこっち見てんのは知ってんだよ」

「ちが、」

「違くねぇよ」


私が否定する前に一ノ瀬さんは言葉を被せた。


「まーいいや、これで絶対に言うなよ?」


そして、私の手からするりと書類を抜き取ると手をひら、と挙げて会議室から出ていった。


パタンと虚しくドアが閉まる。


なに、あれ。

夢だったと片付けられたらどんなに楽だろう。
ドクン、ドクンと響く心臓はまるで毒が侵食してくるかのようだった。