立ち止まり何も言って来ない男の側で、心臓はドキドキからドキンドキンと大きく高音に変わり焦りだす。


何か言ってよ…


耐えられない沈黙に掴んでいた男の腕を離して、作り笑いをする。


「驚きました?そんな気もないくせに、からかった仕返しです」


うまく笑えているだろうか?
男の真意を読み取れず、先走った自分の愚かさをごまかすしかない。


後腐れのない女を演じようと思ってみても、心をごまかし演じきるには恋愛経験が足りなくて、つい、本心が態度に出てしまったていたのかもしれない。


腕に抱きついたのが行けなかったのだろうか?


それとも、『いいですよ』と答えたのがまずかったのだろうか?


男の顔を伺うが、その表情からは何も読み取れない。


「…おもしろくない。無理して笑うな」


突然、ムスッとした声で腕を掴まれ、引っ張るように歩き出した。


「ぶ、部長…」


手を離してもらえる気配もなく、呼んでも振り向いてもくれない男に着いて行くしかなく、しばらく歩いて着いた先は、ここら一帯で一番高い建物であり、最上階にあるバーから夜景が一望でき、店内の照明をロマンティックに演出してあるらしく、カップルのデートスポットになっているホテル前だった。