マジでヤバい…
あいつは絶対、神谷だったよな…?


今、俺は、駅から300m程離れた職場に向かって必死に走っている。
限りなく遅刻に近い時間だけど、俺の脚力からしてみれば、ま、多分間に合うだろう。

朝一番に入っていた会議に、俺はギリギリで間に合った。
というか、この会議自体、俺らの部署にはあまり関係ない事なのに、人のいい部長が若手の俺を勉強がてらという口実でこの会議に送り込んだ。

俺は会議の資料をペラペラめくりながら、今朝起こった嘘のような出来事をもう一度頭の中で検証してみる。


あの時、確かに俺は急いでいた。
まだ下っ端の俺は、この会議の準備の当番になっていたから。
でも、だからといって、神谷とぶつかるか?
いや、ちゃんと確かめたわけじゃないからあの女性が神谷だったのかも定かじゃないけど、でも俺の奥底に眠っていた大切な記憶が叫んでいる。
あれは、神谷だって!

でも、思い出せば気が重くなった。
神谷が大事そうに抱えていたチョコレートケーキを、俺は粉々にしてしまったわけだから。