「美由、私、転勤することになったの。
だから、あなたも一緒に行かない?」

台所のテーブルで、香織姉さんは私にそう提案した。

その日は二月なのに、春の香りがする暖かい日だった。


「転勤て、どこに?」

「北海道。」

「そりゃ、また、遠いところに決まったもんだね…」

「あたしだって、最後まで粘ったのよ。でも、決まっちゃった以上、もう逆らえないじゃない。
もし逆らったら、クビになってもおかしくないっていう噂だし。」

「そうなんだ…」

「高校生活もあと一年残ってるし、せめて、卒業するまではここにいてあげたいって思っていたけれど、私の人生を変えてまで、あなたがそれを望むとは思えなくて。」

「うん。香織姉さんは香織姉さんの人生を歩むべきだよ。私のことなんか気にしなくて大丈夫!」

「で、考えたのよ、美由が一緒にくればいいんじゃないかって。北海道はいいところらしいわよ。」

「別に行かなくても大丈夫じゃない?
ここには恭介兄さんも、隼人もいるわけだし。
私が高校卒業するまではこの家に住んでていいって言ってくれてたし。」

「確かに恭介兄さんは美由の面倒はみてくれると思うけど、その、あれよ、あれ。」

「あれって?」

「美由ひとりをあの二人の元に残していくのは、私が怖いの!」

「………?」

「これだから、美由はーーーーーー」

香織姉さんは盛大なため息を吐いた。