柚希の最寄りの駅は、自分の使っている駅に比べたら幾分小さめな規模。

駅前の大きなT字路で、信号につかまり立ち止まると、少し先に見えているその駅舎の前では、駅員たちが通りを雪かきをしているのが見えた。

今朝、俺は直行を決め込んだから免れたが、この分じゃ職場では朝から雪かきに追われることになっていたのかもしれない。

『あ』

不意に、柚希が頓狂な声を上げる。

『どうした?』
『忘れてた…ポケットにこれが入ってたんだ』

俺の手に包まれていない方の手には、何やら小さなジップパックに入った、見覚えのある球体。

『今朝気づいたんだけど、いつの間にかポケットに入ってたの…隆弘、これ、何だかわかる?』

”綺麗なんだけど、誰がいつ入れたのかも謎で薄気味悪いんだ”…と話す柚希を前に、思わず吹き出しそうになる。

ああ、マスター。

”いたずら”にも、程がある。

雲の切れ間から、日が差し込み、目の前の光景がキラキラと輝き出す。

ちょうど信号は青に変わり、止まっていた人の足が流れ出した。

『柚希』
『うん?』
『今から話すこと、信じるか信じないかは、自由だけど…』

俺達も、人の流れに沿って、横断歩道をゆっくり歩きだす。

確かに存在する、背広の内ポケットのハンカチに包まれたものを感じながら、それと同じものをこっそり柚希のコートに忍ばせたであろう人物のこと、その名前とその石の持つ不思議な力。

…そして、昨夜、自分の身に起こった不可思議な出来事を、柚希に語りだした…。



Fin