『柚希か』
『うん』
『ごめん、連絡が遅くなった…まだ、琥珀堂?』
『そうだけど』
『なら良かった』

内心、ホッとしてしまう。
さすがに今日予約を取っているレストランまで向かっていたら、申し訳なさ過ぎる。

『どうかしたの?』
『ああ、ちょっと仕事でトラブってな…悪いけど、今日の食事、行かれそうにない』
『え』
『店、今からキャンセルできるかな?』
『…お店は、席しか取ってないから、大丈夫だと思うけど…』

と、ちょうどそこで執務室のドアが開き、小暮さんが顔を出し俺を見つけ、待っていた電話がかかってきたことを教えてくれる。

もしかしたら探していた製品の在庫が見つかったのかもしれない。即座に執務室に戻りながら小暮さんに向けて「すぐ出るから、俺のデスクに廻しといて」と、答えた。

『ごめんな。この埋め合わせは、また今度…』
『…うん、わかってる。お店、こっちでキャンセルしておくから、気にしないで』

柚希は、どうやらこちらの状況も理解してくれた様子で、キャンセルの連絡まで申し出てくれる。

ありがたくも、罪悪感に苛まれるが、今は佐藤からの電話が気になって、柚希の申し出に甘えるしかない。

『悪いな、じゃあ』
『あ、隆弘』
『ん?』

執務室に入ったところで、電話の先の柚希に呼び止められる。

『仕事、無理しないでね』
『ああサンキュ』

俺を心配してくれるその柔らかな声に、一瞬で癒されるも、執務室内で仕事の顔を崩すわけにも行かず、ポーカーフェイスでサクッと電話を切った。