『…何か、あった?』

不意に、ケトルを持ち上げながら、柚希に問われた。

あまりにジッと見つめすぎて、その視線を妙に感じたのかもしれない。

動揺を隠し、あくまでも平静を装って、単調に返答する。

『何でそう思う?』
『だって、変じゃない?平日のこんな時間に、突然来るなんて…しかもこの天気の中だよ?』

後ろを振り向かず、カップに湯を注ぎながら続けて話す柚希の声が、かすかに震えているように感じた。

何かを誤解しているのかもしれない。

柚希の不安そうな声が、俺の心を掻き立てた。

『…用事なら、電話だってメールでだって良かったのに、わざわざここまで会いに来ることなんか、いままでだって無かっ…ヒャッ』

俺は堪らず、立ち上がり後ろから柚希をギュッと、抱きすくめた。

いきなりのことに驚いた柚希が、持っていた空のケトルを手放し、キッチンの流しに落としてしまう。