とりあえず、温かいものでも入れようと、ケトルに湯を沸かす、柚希。

湯が沸くまでのしばしの時間、互いに沈黙が続き、室内には、ケトルから聞こえるコポコポという湯の沸く音だけが、響く。

すぐそこに、手を伸ばせば触れられる位置に柚希がいるというのに、何故か直視できない自分がいた。

さりげなく視線を部屋の隅に向けると、そこにはブルーの淡い電飾が点滅する小さなクリスマスツリー。

そうだ、今日はクリスマスだった。

『…雪』

唐突に、気まずいほどの沈黙を破り、柚希が口を開く。

『ん?』
『結構、降ってたでしょう?』
『ああ、そうだな』
『電車はまだ走ってた?』
『いや、止まってた』

正直に答えると、途端に目を見開く柚希。

驚くのも無理はない。

俺の会社からここまで、電車を使わずに来るにはかなりの距離と時間がかかる。

『じゃ、どうやってここまで来たの?』
『タクシーと歩き』

これも正直に話すが、先ほどの不可思議な出来事で、心の中では”多分な”と、付け加えざる得なかった。