15分ほど歩き、通りを左折すると、柚希のマンションのエントランスが見えた。

念のため、外から3階にある部屋を見上げ、明かりが付いているのを確認する。

良かった…まだ起きているようだ。

もちろん、柚希の部屋に上がったことは、今までにも何度かあるが、平日の、しかもこんな遅い時間に訪れたことなど、一度もなかった。

ふと思い立ち、マンションに入る前に、白石にメールを一本入れておく。

今日はもう自宅に帰る気はなく、明日は白石と行く予定だった現地に直行することに決め込んだ。

主任という立場を利用した甘えなのかもしれないが、これくらいの特約くらいは許してほしい。

エレベーターで3階まで上がり、柚希の部屋の前で立ち止まる。

この扉の向こうに柚希がいるのだと思うと、妙に緊張して、馬鹿馬鹿しいほどに鼓動が早くなってくる。

落ち着かせるために、大きく深呼吸し、部屋のインターフォンを押した。

”ピンポーン”

深夜だからだろうか、室内でインターフォンの鳴る音が、思ったより大きく聞こえた。

旧式のインターフォンの為に、こちらの姿は見えないはず。

もしまだメッセージを読んでいないとしたら、この時間に鳴るはずない来客を知らせる音に、少し戦いたのかもしれない。

中で微かな物音がして、『はい?』と小さな返事が返ってきた。