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『…さん…お客さん』

運転手の声でハッと、目が覚めた。

いつの間に眠っていたのだろう。

目覚めたとはいえ、まだ半ば夢の続きのようで、頭の中に霞みがかかったような感覚。

車はハザードランプを点灯し、大きな車道沿いの歩道に寄せて停車しているようだ。

隣を見れば、既に老女の姿はなくなっていた。

『あの、先ほどのご婦人は…』
『先に病院の前で降りられました。お客様がお休みになられていたので、そのまま起こさずに広い通りまで乗せていくようにと言われまして…』
『あ、お金!』
『ここまでの分は、もう頂戴しています』

今時白い手袋をした60代の紳士的な運転手は、にこりともせずに淡々と事実だけを述べる。

『どうされますか?このまま乗っていかれますか?』
『いや、私もここで降ります』

言うや否や、後部座席の左側のドアが開き、いきなり冷たい外気が入り込むと、その寒さで身を震わせた。

今日のような日は、タクシーにとっては需要が多いのだろう。

次の客を拾いたいのか、追い立てられるように、車から降ろされる。

『ご乗車、ありがとうございました』

歩道に降り立つと、すぐ後ろで運転手の声がした。