『ああ、そうだ隆弘君、君にこれをあげようと思っていたんだ』

不意に、マスターが、ポケットから直径1センチ程の丸い水晶のようなものを取り出し、俺の手のひらに乗せた。

それは黄金色や茶褐色、いくつかの色が入りまじった温かみのある不思議な色合いのもの。

『綺麗ですね…』
『この店の名前でもある、”琥珀石”なんだ』
『…良いんですか?』
『今日のお詫びに、君にプレゼントするよ、受け取ってくれるかい?』
『はい、ありがとうございます』

ポケットからハンカチを取り出しその上に乗せると、その色の変化に思わず魅入ってしまった。

『…琥珀にはね、いくつかの不思議な力があって、太古の昔から、持っているだけで魔除けになったり病を治癒したり、幸福を呼び込んだりするらしい』

光の加減で、いくつかの色に変化する琥珀を見ながら、マスターの話に耳を傾ける。

『それともう一つ…この石には、”真実の愛を見抜く力がある”とも言われているんだ。どんなに離れていても、真実の愛で惹かれ合う男女は、強く引き寄せてくれるらしい』
『なるほど…じゃ、まさに僕は今、試されるわけですね』
『さあ、どうかな?』

意味深な笑みを浮かべるマスターに、もう一度お礼を言うと、琥珀石を包んだそのハンカチは、背広の内ポケットに入れる。

心なしか、琥珀石を入れた場所がほんのり温かく感じるのは気のせいだろうか?

俺は、マスターに見送られながら、冷たい雪の降る中、細い路地を足早に進んだ。