この店の外を出た柚希に声をかける男性の姿を想像して、耐えがたいほどの腹立たしさに思わずテーブルの上の拳をギュッと握りしめた。
その男性になのか、自分自身になのか、もはや誰に対する苛立ちなのか分からなくなる。
『隆弘君』
期せずして黙ってしまった自分に、マスターの和やかな声が降ってきた。
『この話を君にしたのは、そんな風に君を動揺させようとしたわけじゃないんだ。そもそも、誰が柚希ちゃんに近づこうと、彼女の気持ちは揺るぎようがないだろうからね。君がそのこと自体を今、気に止む必要はない』
確信めいた声音で、きっぱりと断言される。
『どうして、そう断言できるんですか?』
『…どうして?それは、隆弘君、君が一番よく知っているんじゃないか?』
当然の如く言われ、”そんなこと…”と否定しようとして、何故か続く言葉が出てこない。
マスターは一旦、俺の反応を確認するように一呼吸置き、静かに続けた。
『柚希ちゃんが言うには、君を待つ時間は、嫌いじゃないんだそうだ…確かに、どんなに長くても君を待っている間、彼女はいつも穏やかで幸せそうにしてる…柚希ちゃんには、君しか見えていないんだな…君はそんな彼女に、少し甘えすぎているんじゃないかな?』
おそらく、マスターは柚希の無償の愛に安心しすぎていると、ふとした隙に誰かが入り込まないとも限らない…と言いたいのだろう。
マスターが言うように、柚希が俺をどれだけ想ってくれているのかは、充分わかっていて、どこかで柚希だったらわかってくれるはずだと、甘えていた。
そんな安心感が、俺を慢心させていたのかもしれない。



