『今日、柚希ちゃんは、この6倍以上の時間、君を待っていたよ』
『!』
マスターは穏やかな口調で、続ける。
『勘違いして欲しくないんだが、君を非難しようと思って言ってる訳じゃないんだ。ただ、このところ柚希ちゃんがこの店で一人でいることが多いだろう?今日のように、長く待っていても君の都合が合わずに、帰ることも一度や二度じゃない…』
確かに、ここ数カ月、特に仕事で主任の職に就いてからは、長時間待たせることや土壇場でデートをキャンセルすることも多かった。
でもだからと言って、いくらマスターであろうと、自分たちのプライベートに関与してくるのはルール違反のような気がして、ムッとする。
『柚希が…何か言ったんですか?』
『彼女は何も言わないさ』
『だったら、俺たちのことは放っといてください』
思ったより、強い口調になってしまった。
マスターの言ったことは、事実だし、柚希の為を思って言ってくれているだけなのに、今日の自分は、どうかしてる。
『…声を荒げたりして、すみません』
『いや、謝るのはこっちだよ。いくら気心が知れてたって、確かに店側が君たちのプライベートなところまで踏み込むのは、タブーだからね…でも、一つ君に忠告しておきたかったんだ』
こちらの余裕のなさとは対照的に、マスターは動揺一つ見せず大人の顔で、諭すように続ける。



