あれから変わらず来店者もなく、自分の珈琲を入れるだけにしては、やけに時間がかかりすぎている気がする。
いつもなら気にもしていなかった提供時間が、一人だからだろうか、無性に気になって少し苛立っている自分がいた。
マスターに声をかけようかと視線を上げると、
『お待たせしました』
ちょうど待ち望んでいた珈琲が、ようやく運ばれてきた。
『珍しいですね、1杯の珈琲に、こんなに時間がかかるなんて』
俺は、笑顔ながらも、ついマスターに嫌味を言ってしまう。
『…長く、感じたかい?』
『え?』
マスターから、想定外の返答が返ってきた。
思わず見上げると、おそらく二周り近く年下の自分に、深々と頭を下げている。
『隆弘君、申し訳ない』
『マスター??何を…』
『今日は少し、君に意地悪をしてみたんだ』
『…どういう意味ですか?』
『実はね、この珈琲を入れるのに意図的に通常の倍以上の時間をかけたんだ…君はこの時間、短く感じたかい?』
『いえ…』
マスターの言葉の意図が分からず、素直な感想を口にしながらも困惑する。



