そうして、何度か友人として会ううちに、彼女の片想いの相手には既に婚約者がいて、数カ月先にはその式にも呼ばれていることを知る。

毎度一途に切ない想いを語る彼女の話を聞くうちに、いつの間にか俺は、その男に嫉妬している自分に気が付いた。

そんな風に想われたらどんなに幸せだろうと、思い始めていたんだ。

そして、おそらく柚希の気持ちも、少しずつだけれど、自分に動き始めているのを感じ取れた頃、俺はもう自分の気持ちが抑えられなくなっていった。

かと言って、焦って交際を申し込めば、当然、断られるに決まっている。

だから俺は、苦肉の策で、お互いの傷心を癒すために、お互いを利用しようと”仮初の恋人”を申し出た。

柚希は戸惑いながらも、自分の気持ちを切り替えるためにも…と、それを受け入れ、俺たちの交際が始まった。

”仮初の恋人”から、”本当の恋人”になるまでには、いくらか時間はかかったけれど、初めて柚希の心を手に入れた夜は、今でも忘れられない。

そうして、紆余曲折の3年の月日が経ち、今がある。

【鈴ケ森~鈴ケ森~、お出口は右側になります…】

ふいに、車掌のアナウンスで、我に返り、到着した駅が自分の降りる駅であることに気づくと、慌てて電車を降りる。

危うく降り損ねるところだった。

降りた途端、背中でドアが閉まり、胸をなでおろす。