車の鍵を所定の場所に戻し、栗原課長に報告メールを送ると、翌日の準備をして早々に会社を出た。

さすがに腹が減ったので、駅前の牛丼屋でサクっと軽く夕食を済ます。

無論、本当だったら、今日はスペイン料理に舌鼓を打っていたのに…と思うと、少々空しい気もするが仕方ない。

店を出ると、時刻はまもなく午後9時50分。

どうせ都会の雪だから、早々に止むだろうと甘く考えてた雪はまだ降り続き、どうやら簡単には止みそうにない。

幸い、まだ電車は動いていたので、家路に向かうべく、ちょうどホームに入って来た電車に滑り込んだ。

最寄りの駅までは4駅。

車内は適度に混んではいるが、偶然立った目の前の席が空き、その席に腰を下ろした。

何気なく対面の位置に座るサラリーマンを見ると、膝の上にビジネスバックを置き、その上に大きな正方形の箱を大事そうに抱えてる。

周りを眺めると、同じような箱を持った乗客が数名、その形状と華やかなラッピングからおそらく家族の為のクリスマスケーキであることは、容易に想像できた。

ここでも、否が応でも、今日がクリスマスであることを実感する。

隣の若いカップルは、やたらとくっつき、男性が彼女に送ったらしきプレゼントの指輪を眺めては『嬉しい!』を連呼していた。

それを横目に、俺は自分の鞄の奥底に入った、小さな箱の中身を想い浮かべ、小さく溜息をつく。

結局、今日渡すことのできなかった、柚希へのクリスマスプレゼント。

…いや、クリスマスプレゼントにしては、高額すぎるか…と自嘲する。

特別なものだった。

いわゆる給料何か月分の…という、大きな意味のあるもの。

俺は今日、クリスマスにかこつけて、柚希にプロポーズをするつもりだったんだ。