『白石』
『…はい』
『お前はどうなんだ?』
『…どうって…』
『会いたくなかったのか?彼女に』

白石は一瞬、視線をこの寒空の中を自分を待ち続けて立ち尽くす彼女に向けてから、小さく『…なわけないじゃないですか…』とつぶやく。

つっけんどんな物言いでも、そこに存在する温かなものを感じる。

『なら、行けよ…ほら鍵、戻しておくから』
『…すみません』
『彼女、怒ったりするなよ?』
『分かってますよ』

そういって、車のキーを俺に託し、もう一度俺に頭を下げると、彼女の元に走っていく。

その後ろ姿を見ながら、数年前の自分と重ねてしまう。

もしかして、栗原さんもこんな気分だったのだろうか?

邪魔しては悪いだろうからと、二人がこちらに気づく前に、扉を開け建物の中に入る。

扉が閉まる瞬間、再会した二人がほんの一瞬見えた。

白石に気付いた彼女が、泣きそうな顔で見せた幸せそうな笑顔。

彼女の髪や肩に積もった雪を優しく払う、白石の大きな手。

”彼女、怒ったりするなよ”…か。

偉そうに言ったが、俺はあの時、柚希に優しく出来たのだろうか?

数年前の断片的な記憶の中で、その部分はどうしても思い出せなかった。