『俺も随分前に今日と同じようなことがあってな、当時まだ係長だった栗原さんに、今のお前と全く同じセリフ言ったなって思い出した』

あの日は確か、クリスマスなんかじゃなかったし、雪も降っていなかったけれど、今日みたいにえらく寒くて、冷たい雨が降ってたっけ…。

何故か、柚希の差していたブルーの水玉の傘だけはよく覚えてる。

『あの時の俺は、本当は彼女が会いに来てくれてことが嬉しかったくせに、栗原さんの手前とかここが職場だとか、変なプライドや照れくささが先に立って、イラついてたんだ』

白石は黙って、俺の話を聞き入っている。

『だから、栗原さんに言われたんだ…”彼女だってそんなことは百も承知で、それでもお前に会いたかったんだろう”って、自分を純粋に想ってくれている彼女の気持ちもちゃんと考えてやれってな…』

白石に話をしながら、当時を鮮明に思い出す。

そうだ。
あれは、確かつき合い始めて初めての俺の誕生日。

柚希は俺が一度好きだと言った、フルーツのパウンドケーキを作って持って来てくれたんだ。

なのに俺ときたら…

『俺はそこまで言われてもグズグズしてて…結局呆れた栗原さんに「なんだ、お前は彼女に会いたくなかったのか?」って聞かれて…』
『…何て答えたんですか?』
『ああ、気付いたら「そんなわけないじゃないですか!」って、即答してた』

あの時、栗原さんには、”お前何、俺に逆ギレしてんだ”って、爆笑されたっけ。

思えばあれからかもしれない…ますます栗原さんに頭が上がらなくなったのは…。