一旦、鍵と荷物を置きに社屋に入ろうとすると、その前に白石が何かに気が付き、急に表情が固まった。

『…どうした?』

白石の視線の先を追うと、数十メートル先にある、社員用出入り口近くの門の外に、傘もささずに白いコートを来た、若い女性が一人立っているのがチラリと見えた。

こちらを背に立っているようで顔はよく見えないが、正面玄関入り口とは正反対にあり、メイン通りから外れた裏路地にある為に辺りは薄暗く、白いコートがやけに目立っている。

『白石の知り合いか?』
『すみません、さっき話した彼女です…アイツ何しに…』
『お前に会いに、だろ?…鍵は俺が戻しておくから、早く行ってやれ』
『いや、良いですよ。アイツが勝手に来ただけですから』

怒ったように言う白石に、なぜか過去の自分を重ねて、場違いにも笑ってしまった。

『何ですか?』

白石は怪訝な顔をして、少しムッとする。
バカにされたと思ったのかもしれない。

『ああ、気を悪くしたらゴメン、そういう意味で笑ったんじゃないんだ…お前が、あまりにも昔の俺に、似てたからさ』
『主任に?』

不意に数年前のことが頭によみがえる。