魔法使いさん

私は学校で思い耽る。

そういえばラベンダーさんの匂い凄かった、と。

あたり一体がラベンダー畑と化していた。



「なんだっけ…鼻を刺激する…ナントカを刺激…」

私はこの『ナントカ』の言葉の答えを探していた。



「嗅覚で調べたら出てくるかな…」



出てきた、『ナントカ』は『鼻腔』と言うらしい(読み方は、びこう、という)私が探していた言葉はまさに、

『鼻腔を刺激する』『鼻腔をくすぐる』『鼻腔をつく』

私は今朝、ラベンダーさんに鼻腔をどうにかされたらしく、風を切って登校を済ませた今でも匂いが抜けない。

「あの人の鼻どうなってるんだろ…鼻、鼻腔がどうにかなってるのはラベンダーさんの方かも…。」

また、ラベンダーさんの気になることリストに項目が一つ増えた。



•ラベンダーさんの鼻腔について


「帰りにメモ帳買おうかな…いや、スマホのメモで済ませよう…」

今日はやけに独り言が多い、これもきっとラベンダーさんのせいだ。

これもリストに追加する?ラベンダーさんは人を操る魔法使いなのか。



流石に魔法使いはリストには入れなかった。
そこまで馬鹿ではない。

もし、帰りにラベンダーさんに会えたら連絡先を交換してもらおう。

そして、気になることリストの内容を全て聞こうとも考えた。

そんな事でワクワクし続け授業は上の空で、教師からの大事な連絡を聞きそびれて。

私だけ全く別の行動を取り、てんやわんや。



やはりラベンダーさんは魔法使いなのかもしれない。

全てラベンダーさんのせいにした、心の中で。



結局その日ラベンダーさんに会うことは無く、

連絡先の交換も、

気になることリストについて全て聞く、


というこれらのおかしな行動は慎まれた。

私の中でのラベンダーさんの魔法使い説は更に強まり、やはり自分は馬鹿なのかもしれない、とも思った。




夕食の時、母に

「ラベ…、お隣さん引っ越してきてたの気付いてた?」

と、聞くと

「知ってた。」と、


「お隣さん、ラベンダーの柔軟剤の匂い、凄くない?」

「そう?挨拶に来たけど、そんなに気にならなかったけど?」


私はラベンダーさんに鼻腔をどうにかされた、という確信が出来た。

「え、挨拶?誰?どんな人?いつ?」


「今日の昼頃、隣に引っ越してきた相田ですって洗剤を貰ったの、女の人だった、30とか40くらいの年齢の人。」

私は気になることリストの解答を中途半端に得たことを後悔した。




「30、40ってことはお母さんかな…彼女とか未来の奥さんではない、はず…」

お風呂でもラベンダーさんの事を考えた。




その日の夜、ラベンダーの花に包まれて死ぬという不思議な夢を見た。

不思議とラベンダーの香りがした気がする。


魔法使いの力は本物なのかと、いよいよ思い始めてしまった。
おかしいのは私の鼻腔なのに。