——間もなく~〇〇~〇〇~。お忘れ物の無い様にお気を付け下さい~
電車のアナウンスが流れ、しばらくして駅に止まる。着いた。ここは私が居た町。
——声を失くす前の私、苺谷楓が居た町——
何かの手違いで、通う高校がこの町になってしまったのだ。お父さんもお母さんも来れないので、私は寮での生活となる。
(もうここには来ないと思ってたのにな。)
私がこの町住んでいたのは4年前のことだ。
小学六年生の冬。そろそろ中学へ上がる準備が始まるころに、お父さんの仕事の事情で、
私は引っ越しすることになった。
「何で急に引越ししなきゃいけないの!?」
「だから、お父さんが転勤になっちゃって、家族みんなで行く事になったんだ。六年生にもなった楓なら分かるだろ?出発は今週末だ。後の三日間、クラスの友達に言っとけよ?」
「え、で、でも……」
「大丈夫。引っ越し先でも友達は出来るわ。あ、そうそう。向こうにね、お母さんの友達が居るの。その娘さんが楓と同い年なんだって!良かったわね。」
「………」
初め、私は反対した。でも、親を説得できるような理由が無くて、押し切られてしまった。
その時には既に、私は好きな人が居た。同じクラスの一之瀬巧。
目つきは悪いけど、運動も勉強も得意だった。
「おい、巧。そんなおもんねえ本読んでないで俺らとサッカーしようぜ!」
「……?お前はだれだ?」
「おい、まだそんな冗談言ってんのか?司だ、つ・か・さ。つーかいい加減覚えろ。」
「じゃあ、司。俺なんかと関わらずに遊んでこいよ。休み時間短くなるぞ?」
「…ああ、そうかよ。なら、お前はもう誘ってやんねえからな。」
巧は、いつも教室で一人で本を読んでいた。
町中の学校でもクラス替えはなく、六年間一緒に居るのに、誰一人、覚えられていない。特徴を抽象的に捉えて、それをあだ名にしている。
そして、私は赤いリボンを着けていたので「赤リボン」と呼ばれていた。
最初は変な奴だとしか思っていなかった。
ある日、私は男子の怒りを買ってしまい、
1:5という不利な状態になってしまった。
勿論、女子の私が敵うはずもなく、
「女子一人で勝てる訳ねーだろ。」
「おい、謝れ。侮辱してすみませんでしたって謝れよ!」
「……っく。ぶ、侮辱して……侮辱して——」
「——謝らなくていいぞ、赤リボン。」
「「「「「!?」」」」」
「お前はこいつらの感性を理解できなかった。それはお前の感性と食い違ってたからだろ?なら謝らなくていい。」
「………」
「何言ってやがる。自分の好きなもの侮辱されて、気分のいい奴なんているかよ!」
「お前、こいつの前だからってかっこつけてんのか?」
「なら、てめえが俺らの相手しやがれ!」
「……いいだろう。」
「うぉらぁぁぁぁぁぁ!!!」
喧嘩は、二分もたたずに終わった。
「っくっそう!覚えてろよ!」
五人組は去って行った。勝敗は、巧の圧勝である。傷一つついていない。
「大丈夫か?赤リボン。」
目の前に、手が差し出された。
それが、私の初恋だった。そして、引っ越しの事を聞いたのは、その日の夜だった。
あれから二日が経ち、引っ越しの前日に差し掛かった。引っ越す事は、クラスの誰にも言っていない。
放課後私は巧を喧嘩した公園に呼び出した。
「用って何だ?」
「え、えっと。私、引っ越す事になったんだ。それで、きっと、巧は私の顔を覚えられないんだろうね。」
「すまん。」
「いや、その、謝ってほしいんじゃなくて……私の、私の名前を憶えてて欲しい。」
「でも、俺も引っ越しするんだ。もう会えないかもしれないぞ。」
「そうなんだ。でも、それでもいい。私の名前を憶えていて。」
「永遠に会えなくてもか?」
「……うん。」
「分かった。」
「………」
その後、いつの間にか、私は家の前に居て、声も無く泣いていた。
翌日。誰の見送りもなく、私はこの町を出た。
その途中だった。
――キィィィィイイ!!!ドォォォォン!!
暴走トラックと衝突し、私は首を打って気絶した。
次目が覚めたのは、病室だった。お父さんとお母さんが横で泣いている。
「……っ!」
声が出ない。何で?
「!楓……ごめんよ。」
「……楓ぇ……うぅ」
私は、医師から聞かされた。喉の手術をした際、声帯を傷付けてしまったと。更に、それは避けられなかったことも。
――私は、声を、失くした――
寮に着いても、私は思い出していた。この町に、巧は居ない。でも、どこかできっと、覚えててくれてるよね。
私は自惚れながら、明日の入学式に向けての準備をした。
電車のアナウンスが流れ、しばらくして駅に止まる。着いた。ここは私が居た町。
——声を失くす前の私、苺谷楓が居た町——
何かの手違いで、通う高校がこの町になってしまったのだ。お父さんもお母さんも来れないので、私は寮での生活となる。
(もうここには来ないと思ってたのにな。)
私がこの町住んでいたのは4年前のことだ。
小学六年生の冬。そろそろ中学へ上がる準備が始まるころに、お父さんの仕事の事情で、
私は引っ越しすることになった。
「何で急に引越ししなきゃいけないの!?」
「だから、お父さんが転勤になっちゃって、家族みんなで行く事になったんだ。六年生にもなった楓なら分かるだろ?出発は今週末だ。後の三日間、クラスの友達に言っとけよ?」
「え、で、でも……」
「大丈夫。引っ越し先でも友達は出来るわ。あ、そうそう。向こうにね、お母さんの友達が居るの。その娘さんが楓と同い年なんだって!良かったわね。」
「………」
初め、私は反対した。でも、親を説得できるような理由が無くて、押し切られてしまった。
その時には既に、私は好きな人が居た。同じクラスの一之瀬巧。
目つきは悪いけど、運動も勉強も得意だった。
「おい、巧。そんなおもんねえ本読んでないで俺らとサッカーしようぜ!」
「……?お前はだれだ?」
「おい、まだそんな冗談言ってんのか?司だ、つ・か・さ。つーかいい加減覚えろ。」
「じゃあ、司。俺なんかと関わらずに遊んでこいよ。休み時間短くなるぞ?」
「…ああ、そうかよ。なら、お前はもう誘ってやんねえからな。」
巧は、いつも教室で一人で本を読んでいた。
町中の学校でもクラス替えはなく、六年間一緒に居るのに、誰一人、覚えられていない。特徴を抽象的に捉えて、それをあだ名にしている。
そして、私は赤いリボンを着けていたので「赤リボン」と呼ばれていた。
最初は変な奴だとしか思っていなかった。
ある日、私は男子の怒りを買ってしまい、
1:5という不利な状態になってしまった。
勿論、女子の私が敵うはずもなく、
「女子一人で勝てる訳ねーだろ。」
「おい、謝れ。侮辱してすみませんでしたって謝れよ!」
「……っく。ぶ、侮辱して……侮辱して——」
「——謝らなくていいぞ、赤リボン。」
「「「「「!?」」」」」
「お前はこいつらの感性を理解できなかった。それはお前の感性と食い違ってたからだろ?なら謝らなくていい。」
「………」
「何言ってやがる。自分の好きなもの侮辱されて、気分のいい奴なんているかよ!」
「お前、こいつの前だからってかっこつけてんのか?」
「なら、てめえが俺らの相手しやがれ!」
「……いいだろう。」
「うぉらぁぁぁぁぁぁ!!!」
喧嘩は、二分もたたずに終わった。
「っくっそう!覚えてろよ!」
五人組は去って行った。勝敗は、巧の圧勝である。傷一つついていない。
「大丈夫か?赤リボン。」
目の前に、手が差し出された。
それが、私の初恋だった。そして、引っ越しの事を聞いたのは、その日の夜だった。
あれから二日が経ち、引っ越しの前日に差し掛かった。引っ越す事は、クラスの誰にも言っていない。
放課後私は巧を喧嘩した公園に呼び出した。
「用って何だ?」
「え、えっと。私、引っ越す事になったんだ。それで、きっと、巧は私の顔を覚えられないんだろうね。」
「すまん。」
「いや、その、謝ってほしいんじゃなくて……私の、私の名前を憶えてて欲しい。」
「でも、俺も引っ越しするんだ。もう会えないかもしれないぞ。」
「そうなんだ。でも、それでもいい。私の名前を憶えていて。」
「永遠に会えなくてもか?」
「……うん。」
「分かった。」
「………」
その後、いつの間にか、私は家の前に居て、声も無く泣いていた。
翌日。誰の見送りもなく、私はこの町を出た。
その途中だった。
――キィィィィイイ!!!ドォォォォン!!
暴走トラックと衝突し、私は首を打って気絶した。
次目が覚めたのは、病室だった。お父さんとお母さんが横で泣いている。
「……っ!」
声が出ない。何で?
「!楓……ごめんよ。」
「……楓ぇ……うぅ」
私は、医師から聞かされた。喉の手術をした際、声帯を傷付けてしまったと。更に、それは避けられなかったことも。
――私は、声を、失くした――
寮に着いても、私は思い出していた。この町に、巧は居ない。でも、どこかできっと、覚えててくれてるよね。
私は自惚れながら、明日の入学式に向けての準備をした。