今も新商品の為の宣伝用ポスター案を選別した直後、近くにいたこいつが気が付いた事実に小さくクスリと笑って突っ込みを入れた。
その言葉に組み込まれた名前には『誰?』としか反応は出来ず、そんな俺に呆れた失笑を漏らすと、
「あんたが手にしてるポスター案の製作者よ。広告・宣伝部の〝水守 寧々〟」
「ふぅん、」
「興味なさげに反応してるけど、気が付いてた?前回も前々回も、もっと前のやつもね、あんたが選んだポスター案作ったのミモリのやつよ」
「………」
さらりと告げられた事実にはさすがに興味ひかれて改めてポスター案を見直してしまった程。
正直、興味があるのは如何に自分の作り出したものを魅せてくれるかという仕事に対してだけだった。
作ってる人間にはまるで興味は無くて、どれだけ俺の意志を組んだ魅せ方をしてくれるのかと。
修正箇所が無ければ選んだ物で通るのが常。
ミモリという人間が作るそれに修正してほしいと思う落ち度はなかった。
選んでしまえはあとの打ち合わせはアシスタントを通して行っていた。
だからだろう、その瞬間まで彼女の存在など意識しようとも思った事がなかった。
「……どんなやつ?」
「フフッ、ミモリ?そうねえ……可愛くないとこが実に可愛らしい子よ」
何だそりゃ?と怪訝な眼差しで捉えたイズミの視線はここでないどこかを…誰かを捉えてクスクスと笑っている。
きっとイズミの目にだけ彼女の姿が鮮明に映し出されていて、自分もその姿を捉えようとイズミの目線の先を見つめてみるも見える筈などない。
ミモリ…ネネ。
名前の響きばかり、漢字すら知らぬ他人に珍しく自分の意識が引かれた。
それが……多分俺の想いと執着の始まり。