社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"

「…古くからの…友人って…言われたので…」


小さな声で区切りながら伝える。


運転している相良さんが機嫌が悪そうな事ぐらい、見れば分かる。


「その答えに間違えはないよね。…だって、高校の時からの付き合いだから。ね、大貴?」


「…そうですけど。断ってくれたら面倒事にならなくて済んだのに…」


副社長が助け船を出してくれたので私はホッと胸を撫で下ろしたのだが、相良さんはいつになく弱気な態度。


あの人と何か深い関わりがあるに違いない、と直感で分かる。


聞きたいけれど、聞いてしまったら、私達の関係にヒビが入るかもしれない。


そんな予感すらも感じる。


「秘密主義の彼氏を持つとモヤモヤするんだよね。私も有澄にはモヤモヤさせられたし。カフェのバイトの男の子が、花野井グループの御曹司だなんて…知らずに付き合ってたから、知った時は心底驚いたの」


副社長は訳ありで、婿養子のお父様の名字を借りてカフェで働いていたので、副社長の辞令が下りるまでは花野井グループの御曹司だという事は秘密だった。


花野井グループは百貨店、不動産等を手がける老舗のトップ企業。


私が受付嬢を務めている彩羽コーポレーションは副社長のお母様が手がける会社で、花野井グループの傘下には属していない。


現在はお母様の会社を手伝っている副社長もいずれは花野井グループの方に移動するらしいので、もしかしたら相良さんも移動するのかもしれない。


その"いずれ"がいつになるかは分からないのだけれども、私か相良さんのお互いのどちらかが会社から身を引けば、私達の関係なんてなかったかの様になるかもしれない…と心の奥底では考えたりする。