「凄い、すごいっ。相良真一さんって今、アメリカで活躍してるんですよね」


「……みたいだね。俺には関係ないんだけど。そんな事いいからさ、早く食べなよ。料理冷めちゃうよ?」


「は、はい。いただきますっ」


自分から話題を振ってきたくせに、ご機嫌予報の雲行きが怪しくなってきた。


お父さんの事は、これ以上聞かない方が身のためだ。


有線から流れるカフェミュージックに合わせて、テーブルに置かれた左手の指がリズムを刻む。


この曲、好きなのかな?


細くて長い指がしなやかに弾む時、素敵な旋律が生まれる。


普段は無表情で怖い時もあるけれど、演奏してる時は本当に楽しそうに見えた。


「何なの?指ばっかり見てるけど、指フェチ?」


「え、あ、ち、違いますっ。相良さんの指が動いてたから…音楽に合わせてたのかな、って…」


「音を拾ってた。落ち着かない時は、音を拾って繋げる」


言わいる、絶対音感なのかな?


音を拾って演奏する事が出来るなんて、尊敬します。


「…落ち着かない?私のせいですか?」


私が騒ぎ過ぎたせいだろうか?


「違う。…口についてる」


右手を伸ばし、人差し指で生クリームを掬い取られる。


掬い取られた生クリームは相良さんの舌に絡め取られて、なくなる。


王道シチュエーションにドキリ、と胸が高鳴った。