っ!

綾人の表情が変わった。



眉は下がり、涙も流している。

だがそれでも、先程より一層増して綺麗だった。



何故なら、無邪気に微笑んでいたから。



嬉し泣きの様な、そんな表情。



「彩華さんっ、これは紛れもない現実っ、です」



っ!

いや、だがあり得なさすぎる。



綾人が私を好きだなんて。



間近に居る、好意の隠る視線を送る朱里が近くに居ながら、

先代の中で1番遠い私を選ぶなんてっ。



「信じ……られま…せんか?」



信じられない。

信じられる訳がない。



あり得ない。

こんな幸せを感じさせる現実なんて、あり得るはずがない。



「なら……」



綾人の手が離れ、同時に顔が近付いてくる。

身体も先程以上に密着している。



っ!



唇に当たった生暖かく、柔らかい感触。

同時に間近に、吐息なんて確実に掛かる距離にある綾人の顔。



キス……されている?



キスなんて今までしたことがない。

感覚なんて分かるはずも、想像すらしたことがない。



なのに今、キスされている?



ースッ



そんな事を思っていたのは束の間。



両腕を頭の上で、綾人によって固定される。



同時に舌が入って来る。

絡められる舌に、反抗…できないっ。



感じた事なんて無い感覚。



信じられる訳がなかった状況を、感覚によって現実だと知らされる。