思わず周囲を見回した。
幸い周りには誰も座っていない。誰かに聞かれたってことはなさそうだ。

「進藤さん、ホントに心臓に悪いです。そういう誤解を招く発言は控えて下さい。誰かに聞かれて大騒ぎになったらどーするんですか」
大きくため息をついて軽く睨んでやる。

「まだ、そんなこと言ってんのか、果菜は。ま、いいや。じゃ行こうぜ」

少し、呆れたような顔をして私を一瞥した後すぐに伝票を持ってさっさとレジに向かう進藤さんを慌てて追いかける。

もうっ、周囲を気にしたりするのは当たり前でしょ。進藤さんは有名人だし。
私みたいなちんちくりんが彼女だって誤解されたら進藤さんの評判を下げてしまう。
メイクだけは急いで直してきたけれど。

今日は車だという進藤さんの後について歩いていく。
気後れしてどうしても隣に並んで歩けない。
昨日は進藤さんの勢いにつられたって感じだけど、さすがに今日は冷静に考えて無理。

「おい、果菜。何で一歩下がってんだ。しっかり隣を歩け」
振り返った進藤さんがグイっと私の腕をつかむ。

うきゃあ

「無理ですよ」
「うるさい、隣を歩かないんなら手をつなぐか肩を抱き寄せて歩くぞ。いいのか」
「いや、絶対だめです、ダメ」
「じゃ隣に来い」
怖い顔をする進藤さんに従い仕方なく隣を歩く。

「俺は手をつないでもよかったんだけど」
と黒い微笑みを浮かべてそんな恐ろしいことを言った。

ホラー映画より恐ろしい!!

ギョッとした私を見てまた進藤さんは笑う。
「あー、果菜ってホントに飽きねーな」

私はおもちゃではありませんからね・・・。