「らせん階段を下りて行く途中に何度か窓側の席で1人で夜景を見ながら飲んでる女性を見たんだ。
1人で飲んでる女なんて珍しいだろ?つい失恋したのかなとか待ち合わせなのかなとか、1人で来てるのはお気に入りのバーテンダーを落とすためかなとか勝手な想像をしていたんだけど。どれも違うって知ったのはこの間だ」

「確かにどれも違いますけど」

「あそこの常連客の中ではお前のことアツシの彼女だっていう噂になっていたのを知ってるか?」

「ええ?アツシさんのですか?だって、いつも店内でそんなにアツシさんと会話もしてはいないですよ。光栄ですけどあり得ません。どうしてそんな噂が」

「あの店にはバーテンダー以外にウエイターもいるだろ?それなのに、果菜のオーダーを取るのも酒を運ぶのも必ず人気のバーテンダーのアツシがしていた。皆が勘違いしても仕方ないだろうな。実際、俺もそうかと思ってたし」

ああ、そういう事か。

「それには事情が」

「ああ、俺もあの日にアツシに聞いた。自己肯定感の訓練だって?アツシは慣れない果菜のお目付け役だったんだってな」

「そうなんです」

「アツシと関係がないって聞いて安心したよ。俺は何度か見かけたお前のことが気になっていたからな」

「だから、さっきも・・・なんで・・・」

「んー、果菜の真っ直ぐな目かな。夜景を眺める真っ直ぐな目とか・・・まあいろいろ」