「俺は果菜がいい。初めてアツシの店で見かけた時から果菜がいい」

え?

抵抗してもがくのを止めた。

今、何て?


「果菜は10日前に会ったのが初めてだと思ってるだろうけど、その前にも果菜のことあの店で見かけてる。知らなかった?」

こくこくと頷いた。

「あの店って3人以上で行くと店内のらせん階段を使って下のフロアに案内されるだろ。だから、果菜は気が付かなかったのかもしれない。俺は普段スタッフと打ち合わせで下のフロアの奥にある個室を使っていたから」

下のフロアがあるのは知っていた。
私が飲んでいたのは1人か2人で訪れた客用の落ち着いた静かなフロア。3人以上で訪れると下のフロアに案内される。木下先生以外とは一緒に行ったこともないから下のフロアがどうなっているのかなんて知らない。