私が定期的にこのバーに来る最大の目的は夜景を楽しむことでもお酒を飲むことでもなく
『私は一人前の大人で、まあまあいやそこそこ綺麗な女性である』という自己肯定感を得るためなのだ。

私は半年前まで密かに恋をしていた。相手はうちのクリニックにアルバイトに来ている内科医の藤川尚也。
完全な片思い。

彼は研修医課程修了後３年間のアメリカ留学を終えて帰国。その後大学病院に戻り、さらに週に一度、火曜日だけうちのクリニックに開業医の勉強をするためアルバイトに来ていた。

２９歳。ドクターとしてはまだまだ若い。
でも、ブラウンがかった柔らかそうな髪ときりりとした意思の強そうな眉、その下にある大きな瞳は人懐っこい印象を与えていて、見ているだけで包み込んでくれそうな安心感をもらえる。
外来診療をする医師としてのセンスもある。
患者さんからの質問をしっかりと聞いてくれ患者さんにわかりやすく求める答えを正確に伝えていく。

恋人のいない私が長身、イケメン、性格もいいなんてわかりやすく上等な男のことを好きにならないはずがなかった。

おまけに職場での藤川先生は完璧。

ナースや事務スタッフ、クリーンスタッフのおばさまにまで丁寧に笑顔で接する。

私が話しかけてもいつも笑顔だった。
だから、ちょっとだけその先を期待してしまっていた。