方向性が決まったところでスタッフたちはバタバタと動き始めた。
進藤さんが休めないからと、それぞれ楽屋を出て行く。

「ね、水沢サンだっけ、君の肩には明日のライブと俺たちの将来がかかってる。頼んだよ。ここでコケると俺たち何千万の負債を背負ってしまうことか」
ジャージさんが笑顔でプレッシャーをかけてくる。

「えええ~、頑張りますけど、でも頑張りの半分は私じゃなくて進藤さんの自己治癒力ですからね。いいですか。でも、私に出来ることは最大限やらせていただきます。それでだめなら皆さんで頑張ってください」
とひきつった笑みを返す。

あははっと後ろでTシャツサンが笑う。
「君、結構いい性格してるし、度胸ある。期待してるよ」

「じゃ、俺たちはリハに戻るから後はよろしく」と2人は笑いながら出て行った。


点滴中の進藤さんは眠り始めたようで、呼吸が規則的になっている。

「木下先生…」
恨みがましい目で見ると、木下先生は「そんな目で見ないでよ」と小さく笑う。

「じゃ、じゃあ俺も帰ろうかな~」

ん?
ちょっと待ったァ!

「このまま私を放置して帰るおつもりですか?」

「だって、2人いても仕方ないし」

「それはそうですけど」


木田川さんは「事務所の社長に連絡をする」と言って楽屋から出て行ったり戻って来ない。

結局、木下先生は往診バッグと今後必要になりそうな内服薬と私の私服とバッグを置いて帰ってしまった。

「僕は明日も朝から外来だから後はよろしく。水沢さんは明日のライブが終わるまで進藤さんの体調管理が仕事だから。報酬はキチンと払うからがんばれ」

そう言って笑顔で。