ほどなくして運ばれてきた3杯目のカクテルをゆっくりと味わって、席を立った。
私の疲れた身体を心配したアツシさんが作ってくれたのはアルコール濃度低めのカクテルで、お酒と言うよりフレッシュジュースに近かった。

もう少しアルコールを楽しみたかったけれど、アツシさんから見たら私の世話を姉と義兄に頼まれているのだから無責任なことはできないのだろう。ここは私も我慢しなくてはいけない。

アツシさんはさっきのカウンターの男性客と会話を交わしている。
やっぱり親しそう。ただの客とバーテンダーという感じじゃない。

私がカウンターの前を通り過ぎるときにアツシさんが気が付いてくれて「帰る?」と声をかけてくれた。

「うん、ごちそうさまでした」と言うと男性客が顔を上げて私を正面から見た。

わあ、近くで見るとすごい、この人。
パッと見、ワイルドなんだけど、切れ長の左目の下のほくろ。かなり色っぽい。

藤川先生でイケメンは見慣れたと思っていたけど、このワイルド系イケメンって初めてのジャンルに胸がドキッとした。
驚いたように自分を見つめる私に気が付いたのだろう、彼の口角の左側だけかすかに上がった。

ハッとして慌てて目をそらす。
あー、見とれるなんて恥ずかしいし、かなり気まずい。
大人の女性はこんなにガン見はしないだろうな。失敗。


「気を付けてね」
アツシさんの声に頷いて「また来ます」と店を後にした。